郡上発!水出しコーヒープロジェクト

郡上カンパニーの第1期共同創業プログラムの1つで、共同創業者を追加募集することが決定!プロジェクトパートナー(PJP)の小澤陽祐さんにインタビューをしてきました。任期は2年間となりますので、現在募集中のプログラムより短いですが、ぜひご検討ください!


 

郡上の水文化に注目した『郡上発!水出しプロジェクト』。柱である、郡上八幡の水汲みスポットで水を飲み比べながらまちを歩く『水出しまち歩き』は、その目新しさから国内外の旅行客や地元の人にも一目をおかれる体験となっています。

このプロジェクトを発起したのは、有限会社スローの代表取締役の小澤陽祐さん(以下、おじゃさん)。出身地である千葉県松戸市を拠点に、19年前からオーガニックやフェアトレードのコーヒー豆だけを自社焙煎することにこだわり続けて来た“コーヒー屋”であるおじゃさんがなぜ、郡上に拠点を移してまで『水』や『水出しコーヒー』に注目し始めたのでしょうか?

「やっぱり春はいいね。ふきのとうとか、山菜が土から出てくる時期は特に嬉しくて、ムズムズしちゃう(笑)。閉ざされていたものが解放されるという、あの感覚が好きなんだよね」(小澤陽祐さん)

転機となった出来事から、今後の挑戦、そして現在募集している共同創業パートナーのイメージ像に至るまでを伺おうと、『古今伝授の里フィールドミュージアム』へ向かいました。

郡上大和に立地。豊かな自然を有しながら、近所には、スーパーマーケットや本屋さん、ホームセンターやお寿司屋さんなど複数の商業施設が集まる利便性の高いエリア。

 
■ 3.11を経て見直した“水”に対する認識。より多くの人にもそのきっかけを与えたいという思いを秘める

おじゃさんが“水”に注目するようになったきっかけは、2011年に発生した東日本大震災、そして福島第一原子力発電所事故でした。事故の影響で当時住んでいた松戸市の水道水から放射能が検出され、水が一時的に飲めなくなり、水の奪い合いをする事態に陥ったのです。そんな折、郡上の親族からポリタンクに汲まれた美味しい“自然の水”が届きました。

「『あぁ、助かった…』と、本当に救われた思いをしました」

その時に、水は“人の暮らしの根源”であるという当たり前のことに、改めて気づかされたというおじゃさん。認識が変わった時のハッとした“感覚”を、いつかは他の人にも追体験してもらえるように表現するんだと、その頃から心に決めていたそうです。

 
■まちを巡りながら自分の舌で“水”の味を確かめる『水出しまち歩き』の誕生

そうして震災から3年後、おじゃさんは奥さまの出身地である郡上への移住を決意。2016年には、郡上八幡から車で15分ほどの郡上大和に新居を構え、新しい生活が始まりました。

「郡上では、集落によっては水道が引かれた後も、いまだに生活水に山水しか使っていない家庭もいっぱいあるんです。それって僕にとってこれまで考えられなかったこと。

都市部に住んでいると水というものは、 “買うもの”と認識していたけれど、郡上に住みはじめてそれは“自然のもの”、そして“公共のもの”であることを思い出させてもらったんです」

おじゃさんが感銘を受けたのは、郡上の人たちが守ってきた自然の水を使った暮らしや文化でした。その奥深さを見聞きするにつれ、「いつか」と秘めていた思いを実現する糸口が掴めてきたのです。

郡上の水資源を活用しながら、水の大事さに気づく“感覚“を得てもらうには、どのような方法があるのだろうか?

「郡上八幡は小さい町でありながら、自家焙煎している喫茶店が3軒もあって。そこに『千葉からきたコーヒー屋だ』って割って入るのは当初からすごく嫌で。戦いたくないし(笑)そこでちょっと角度をずらして、“水出しコーヒー”ならいいんじゃない?って思ったんです」

そんな中、地元の方から「うちの湧き水、分けてやるよ。良かったら水源もみるか?」と、声をかけてもらったり、「新しいカタチで郡上の自然の水を活用するアイディアが出てくるのは嬉しい」と、賛同してもらえることが続きました。

「『郡上の人間も水の使い方が下手になってきてる』と耳にしたんです。せっかく残っている井戸も使わなければ澱んでしまいますし、澱めば飲まない、使わないという負のサイクルが回る。そこでこのプロジェクトは、郡上の水文化を引き継ぎつつ、観光の目的のひとつにもなり得るものにしようと考えました」

そうして2017年に『郡上発!水出しコーヒープロジェクト』をリリース、2018年には、『水出しまち歩き』のお供となる『水出し体験セット』も完成し、本格始動させました。

タンブラー、フィルター、水汲みマップがセットになった『水出し体験セット』。フィルターには、『スローコーヒー』を採用。

「マップを辿れば井戸水、水道水、湧き水、山水の4種類を巡れるようになっています。井戸水や山水などの自然の水を飲むと『ここは好きだな』っていう人が結構多くて、逆に水道水を飲むと、『ちょっと違うな』っていう人が比較的多くなるという傾向が見て取れるんですよね。“自然の水”というのは遺伝子レベルでわかるように組み込まれてるんだ!と、面白い発見がありました」

目指している“感覚”につながっている手応えを感じつつも、“歯痒さ”が残ると吐露するおじゃさん。

「いまだに日本の一部では水道水に含まれる放射能がゼロじゃないところもあるはずなんです。そうでなかったとしても、カルキが含まれた水を“安全”なものとして飲まされている現状ってなんなんだろう。対して、郡上で自然の水を飲もうとすると、食中毒などの“リスク”があるということで責任問題の話になる。一体どっちが危ないのか?どんな未来を選ぶのが大事なのか?僕はこのプロジェクトを通して、それをみんなに考えて欲しいし、問うていきたいんだろうね」

『水出し体験セット』の販売を始めたものの、地域との合意形成や、広報・宣伝、さらに水質調査などに大幅な力を割かなければならなかった1年目。本業のために松戸市との往復生活をしているおじゃさんが、このプロジェクトを事業として成立させるためには、更なるアイディアやマンパワーが求められています。

 
■ 「水のまち郡上」のもつ価値を都市部に、世界に発信していきたい

今年で2年目となる『郡上発!水出しプロジェクト』に、新しい流れがやってきたようです。今年注力する、2つの取り組みについて伺いました。

1つ目は、周遊観光アプリ『grully』と連携した『水出し歩き』の充実化。このアプリは、仏閣巡りやラーメン巡りというような、日本全国のスポットをいろんな切り口で巡れるコースを紹介するアプリで、利用者の趣味や予算などに合わせてオススメを提案してくれるという優れもの。既存の郡上八幡コースに加えて、郡上大和コースも新設し、それらをアプリで紹介してもらうことで新しい客層を呼び込もうという試みです。

「去年は郡上にきた旅行客をターゲットにしていましたが、今年は、『水出しまち歩き』を目的に郡上を訪れる人を増やしていきます」

『水出しまち歩き』を楽しむご家族の様子

2つ目は、「水出しコーヒースタンド」の開設。郡上市の大和町内に水出しコーヒーのスタンドを開設することを検討しています。

「郡上のおいしい水を使った水出しコーヒースタンドが実現できれば、郡上の水にフォーカスした発信・案内拠点が作れるんじゃないかと、今から妄想が広がって大変です(笑)」

例えば、大和町の中でも川の上流域の母袋集落にはどぶろくがあり、その川下には温泉がある。さらに酒蔵もあり、蛍も棲んでいるなど、この周辺は“水”から連想される資源に事欠かない。この稀有な環境は日本の都市部だけでなく、世界にも発信できることだと、おじゃさんは確信しています。

「だって、世界中探しても水道水をまともに飲める国なんて少ないでしょ。日本に来てわざわざペットボトルの水を買うのってもったいないよね。そうじゃなくて、少なくとも郡上にきた人には『郡上の水を飲もう』と思ってもらえる、それくらいの発信力を持たせていけたらいいよね」

敷地内に流れる栗巣川。木立の奥には新築中の施設が垣間見える

 
■ 文化や暮らしも含めて大和を気に入った人と、事業をつくる

おじゃさんに大和町の将来像を聞いてみると、一瞬拍子をつかれたような答えが返ってきました。

「短歌の里みたいになっているといいなって。短歌大会が活発におこなわれているような」

大和町はかつての領主が歌人として名高い功績をあげたことから『古今伝授の里』との愛称をもち、今でも小・中学校までは季節ごとに短歌を詠む風習が残っています。

「高校生以降は途絶えちゃうんだよね。だから、最初はイベントか何かで仕掛けをつくって、それ以降も歌を詠む機会を作ろうかと。地元の人たちとも『短歌で合コンやりたいよね』と盛り上がってるんですよ(笑)」

冗談のようで、実現させてしまいそうな予感。「それから」と、間を開けずに続けるおじゃさん。

「うちの家の前は一面田んぼなんです。10年、20年後のことを思うと、僕らがなんとか田んぼをやっていかないとこの風景は守れないわけ。だから、その時を見越して同じようなマインドで田んぼをやる仲間が欲しいよね。共同創業パートナーが、そういうことまで共感してくれる人だと嬉しいです」

今おじゃさんが向き合っている“水”は、地域の方々によって活用され、守ってこられたもの。だからこそ、歌や田んぼなどを含めたその人達の暮らしにおじゃさんが敬意を感じ、それらを受け継いでいきたいと感じるのはごく自然なことだと、ふと腑に落ちました。

『古今伝授の里ミュージアム』に隣接する、妙建神社の手水舎

人の暮らしの根源である“水”を見直すことを通じて、本当に大事なことは何なのか、自分たちが望む未来はどんなものなのかを表現していく、やりがいにあふれたプロジェクト。水が好き、川が好き、山が好き、自然が好き、コーヒーが好きな方の応募をお待ちしてます。水出しコーヒーがつなぐ未来へのコミュニティを一緒につくっていきましょう!

プロジェクトの詳細はコチラ:「郡上発!水出しコーヒープロジェクト

プロジェクトイメージ写真 :©︎杉本恭子

 

PROJECT PARTNER

小澤陽祐(おざわ・ようすけ)

1976年千葉県松戸市生まれ。有限会社スロー代表取締役。NGOナマケモノ倶楽部共同代表。1999年よりスロームーブメントに関わる。2000年7月スロービジネス第1号として、20代男子3名でスロー社を設立。20代の起業ならではの紆余曲折を経ながらも、【オーガニック】【フェアトレード】のコーヒー豆のみを【自社焙煎】することに特化し、スローながらも着々と卸先・顧客をふやしている。2009年10月には、スローコーヒー八柱店をオープン。2016年から焙煎機の電力を100%太陽光発電の電気に切替える【ソーラー焙煎】にチャレンジ。2016年夏、郡上市に自宅を建て移住。現在松戸と郡上で2拠点生活中。 2018年から【郡上発!水出しプロジェクト】を展開している。

INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー、ライター、デザイナー。 1988年徳島生まれ、京都育ちの転勤族。大学で建築学を専攻中にアジア・アフリカ地域を訪ね、土着的な暮らしを実践することに関心を持つようになる。辿り着いたのが岐阜県郡上市。2015年より同市内にある人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。在来種の石徹白びえの栽培にも生きがいを感じる日々。2018年、独立。

 

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