持続可能な秘境をつくる!明宝小川プロジェクト

2019年4月からスタートする、郡上カンパニーの第2期共同創業プログラム。現在8つのプロジェクトで、共同創業者を募集中です。各プロジェクトの郡上に住むプロジェクトパートナー(PJP)に順番にインタビューをしていく本連載企画。本日で最後!8人目は、明宝小川地区の民宿「上出屋」で女将をされている西脇洋恵(にしわき・ひろえ)さんです。


 
■ 郡上一の秘境!?明宝小川地区で暮らす

今回のプロジェクトの地は、『明宝ハム』、『明宝ジェラート』、『明宝トマトケチャップ』、『明宝ジビエ』など“食”を通じた地域活性化をはかっている明宝地域にある小さな集落、小川地区。郡上八幡から車で20分の『道の駅明宝』を過ぎてから、峠道を約30分越えたところにあります。標高は700mほどで、冬には氷点下10度を下回る日も珍しくありません。この気候を活かし、毎年冬になると住民お手製のスケートリンクが作られている地域でもあります。

峠道の前に広がるのは迫る山々。右へ左へと、くねくね道に揺られ、ついには標高1000メートルを超える小川峠に到達!そこから下っていく細い峠道は、野生動物に出会えそうな気配が漂っています。ようやく山を抜け集落に入ると、道路から川が見えてきました。「人が近くに住んでいるとは思えないほどの綺麗さ」とのうわさ通り澄み切っていて、思わず「美味しそうな水・・・」と引き込まれそうになりました。

こんな、郡上随一の秘境で民宿を営むのが、西脇洋恵さん(以下、洋恵さん)です。どういう経緯で小川地区にこられたのでしょうか?

「青年海外協力隊でケニアに赴任している時に、現在の夫に出会いました。彼の実家がここにあったので、24年前に嫁いできたんです」

日本に帰国して早々に山奥の地域へお引越し。暮らしはじめた頃の印象を伺うと「ケニアでもタイムスリップしたような生活をしていたので、戸惑いは特にありませんでしたよ!」と、あっけらかんと笑う洋恵さん。

「山間部なので、昔は厳しい生活だったんだろうな。道も舗装されてなかったし、長い間電気もきてなかったし、近所のおばさんは川で洗濯してたというのも聞きましたし。そう思うと今の生活は、なんでもあるじゃん!なんて便利でありがたいんだろうという感覚でした」

幼少期は箱入り娘で、虫もつかめなかったという洋恵さんは、ケニアで強くなったのだとニヤリと笑います。赴任中に培った好奇心旺盛に活動する姿勢は今でも変わらず、現在は明宝地区の数々のまちづくり活動に関わっているそうです。その中でも大事な経験となっているのが『めいほう鶏ちゃん研究会』や『ビスターリマーム』という、明宝地域の民宿女将の団体での活動です。

「主にグリーンツーリズムを学んで、子どもたちに川遊びや山菜採りなどの体験を届けてきました。昨年は、郷土食や伝統食の掘り起こしをして『めいほう食の教科書』という四季折々の食材を使ったレシピ本もつくることができました」

そういって、誇らしげな顔で完成した本を見せてくれました。

『めいほう食の教科書』

「食べ物は口に入ったらなくなってしまうので、人は生きている限り三食食べ続けなければならないからね。今後も自分の食べるものへの興味を持ってもらえるような活動ができると嬉しいです」

そう呟く洋恵さんは地域の人に教わった、いわゆる手間暇をかけて作る料理を日々実践されていらっしゃいます。

「面倒なのに楽しいだなんて、マゾなのか?って感じですよね。(笑) どうやって作ってるんだろうって気になったら、とことんやりたくて。好奇心の塊なのかな!」

ケニアではお米を食べるにもゴミを自分で抜いてから、ハンバークを作るにも肉の塊から、牛乳を飲むにも沸騰させてからだった、と当時の暮らしを面白おかしく振り返りながら、今の里山暮らしが楽しくて仕方がないことを教えてくれました。

そんな洋恵さんが、移住24年目にして立ち上げた『明宝小川プロジェクト』を思い立った背景を伺いました。

 
■ 一家族でも多く、小川に住んでもらいたい

「はっきり言って、この3年で小川はどうにかしないと、本当にダメになると思うんです」

初めに洋恵さんの口から漏れてきたのは、危機感迫るこの言葉でした。小川地区の現状を伺いました。

「15年前は80世帯250人いた住民が、現在は60世帯120人まで減少しています。地域にある小学校の生徒数は現在5名で、2年後には2名になります。これまで地域の人たちで維持してきた伝統文化の継承も、家屋や田畑の維持も、自治会や消防などのコミュニティ活動の運営も、目に見えて難しくなってきています」

確かに小川地区は、毎年春になると小学校入学者数が少ないことで、郡上では逆に注目を集める地域の一つ。日本中で叫ばれている人口減少や少子高齢化の最先端をいく地域のなのです。

「お金をあまりかけないで空き家を活用できるギリギリの時期だと思うんです。集落の団塊の世代の人たちに力仕事などでも助けてもらえる最後の時間でもあると思っています。実は3年後に明宝との間にトンネルが開通する予定なので、小川に住む魅力を残せるかどうかは、この3年間が勝負なんです」

これまで様々なまちづくりを経験してきた洋恵さんですが、いざ自分の住む地域を対象にすることを考えると、重い腰が上がらなかったそうです。

「主人はここで生まれ育ち、私も24年も住んできました。周りの人がどれだけ小川を大切にしているかがわかるからこそ『この集落を残したい』という気持ちが募るのですが、それは同時に『絶対失敗できない』という気持ちも生んでしまっていたんです」

そんな洋恵さんに、家庭環境の変化が訪れました。

「昨年の3月に3人目の子どもが東京の大学に進学したことで、子育てが一段落したんです。一昨年の暮れには義父も亡くなり、介護からも解放されました。ふと巡ってきたフリーの時間を使って、この先の人生を楽しくしていきたいし、小川地区のために何かしたい。そう思っていると、ようやく覚悟ができたんです」

小川地区の地域づくりに踏み切る「最後の機会」になるかもしれないと、神妙な面持ちで話す洋恵さん。課題も、やるべきこともたくさん見えていながらも、まずは小川の交流人口を増やすことが自分のできることだと判断され、そのとっかかりとして体験プログラムづくりと空き家を改修した体験施設及び簡易宿泊所施設づくりを始めていきます。

「交流人口だけ増えても小川は続かないので、3年のうちに一家族でもいいから移住者を受け入れるというのを目標にしています。

あと、このプロジェクトを通して“田舎も楽しいんだな”って思ってもらえて、郡上出身の若い人が週末だけでも帰ってこようとか、子育ては郡上でしたいなと思ってくれるような人が出てくるような生き方をしたいな思います」

小川地区の心の支えであるお寺さん。住職さんもまちづくりのキーパーソン。

 
■ 一人一人に気づきをもたらす体験事業を作る

グリーンツーリズムの一環でもある、暮らしの道具づくりや、豆腐やこんにゃくなどの食づくり、パンづくりなど、洋恵さんの思い描く体験の種類は、田舎風なものから洋風なものまで様々。インストラクターを育てながら、参加者の趣向や年齢などに合わせて選択肢を少しずつ増やしていくイメージを持たれています。

多くの人を惹きつけるために選択肢を増やしたいという一方で、洋恵さんが最も力を入れたい体験とは何なのでしょうか?少し考えるように黙り、頷く洋恵さん。

「絶対的に寒いところでしか作れない料理!この土地でしか作れない山菜料理とか、食文化だと思う。昔の人は、冬に寒晒しをして乾燥させたり、塩漬けをしたりして食品を保存していたので、そういう小川特有ものは残したいな。ここに住んできた人たちが一番苦労したことだと思うから、それを手作業として残していきたい。

昔の手作業を体験にして伝えることで、今の自分の生活がすごくありがたい生活なんだなって気づけるんじゃないかな。私もケニアで生活があったから、手間暇かけることがめんどくさいのではなく、逆に幸せなことだなって思うようになったんです」

これは人に押し付けられて理解できるものでなく、自分で気づかないと本当の意味で得られないという洋恵さん。それゆえに、体験の作り方にもこだわって行きたいと意気込みます。

「例えば、手仕事の材料もあらかじめ用意してもらったのを使うのではなくて、その材料を採りにいくところから習うとか。インストラクターのおばあちゃんに、どこにあるかを聞いて、自分で山に入って見つけにいくとか。

『山にはヒルがいるんだな』とか『これがアケビのツルなのか』とか『こんな味するんだ』とか、その最中に、いろんなことに気づく。そんな些細なことからでいいんです。“自発的に気づく”というきっかけをもたらすことができる体験をつくっていきたいです」

洋恵さんの地区一番のお気に入りの場所。ここに立って、地区の将来を描くといいます。

 
■ コーディネータを募集中!

現在、洋恵さんは、『持続可能な秘境をつくる!明宝小川プロジェクト』の共同創業パートナーを募集しています!

「まず空き家の改修に興味がある人がいいですね。大工仕事が楽しいという人だと尚更歓迎です。でも改修は地元の大工さんにも頼むので、メインはコーディネートをお願いしたいです。人とコミュニケーションが取るのが得意な人に向いてそうです」

改修に関しては、大工さんやお手伝いさんへの作業の依頼、スケジュール企画や予定などの情報発信、体験プログラムに関しては参加者とプログラムやコーディネータの調整などといった仕事を想定されているとのことです。

しかし、上記の仕事は『明宝小川プロジェクト』のはじめの第一歩。これが軌道に乗れば、パートナーの希望を汲みながら新しい企画を始めることも可能です。

「私は小川の人や、パートナーさんなどいろんな人から話をききたい。板挟みになるかもしれないけど、その想いを近づけるのが私の役割だと思います。そこから、小川にいろんな可能性をつくっていきたいんです。

やりたいと思っても、その人一人ではできないことでも、できる誰かと一緒になって想いを可能にしていく。大きな会社を一つ作るのではなく、いろんなところで人が必要になるような事業をいくつかおこしていきたいんです。ヤギ牧場でヤギチーズやヤギアイスを作りたいという人がいれば、それも全面的に協力したい!笑」

やりたいことや信念を持った人は大歓迎。しかし、フィールドが自分のやりたいこと以外のことにも興味を持てる人の方が、小川地区での暮らしを楽しめるのではないでしょうか?小さいようでたくさんの可能性を秘めたこのフィールドで、新しい人生をひらいていきませんか?

プロジェクトの詳細はこちら:「持続可能な秘境をつくる!明宝小川プロジェクト

 

PROJECT PARTNER

西脇洋恵(にしわき・ひろえ)

1966年10月千葉県生まれ。さそり座のB型で、ついでに丙午生まれです。約20年前に当時勤務していたケニアから嫁として小川にやって来ました。何もない田舎でしたが、ケニアのほうがすごかったので何とも思いませんでした。地域唯一の民宿の女将として暮らすなかで自然と人の魅力に惚れ込み、まちおこし活動にも積極的に関わっています。いまは子供が全員大学生としてひとり暮らしを始めたので、ようやくできたフリーの時間を使ってこの先30年(?)ある残りの人生を楽しく変えたいし、小川地区のためにもっと何かできないかと日々考えています。座右の銘は「人生楽しく!」

INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー、ライター、デザイナー。 1988年徳島生まれ、京都育ちの転勤族。大学で建築学を専攻中にアジア・アフリカ地域を訪ね、土着的な暮らしを実践することに関心を持つようになる。辿り着いたのが岐阜県郡上市。2015年より同市内にある人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。在来種の石徹白びえの栽培にも生きがいを感じる日々。2018年、独立。

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