<インタビューvol.07>自身の自然(じねん)に触れられる機会が必要な人の居場所になるような場を創りたい(早坂拓紀)

2018年からスタートした郡上カンパニー「共同創業プログラム」。中の人と外の人がつながりながら、郡上を舞台に数多くの挑戦が始まっています。昨年からは第3期がスタートし、現在は合計7プロジェクトが進行中です。
本シリーズではプロジェクトを進める人たちに焦点をあて、郡上で挑戦するみなさんへのインタビューを通して、郡上カンパニーの今を伝えます。


7人目にして最後のVPは、「八百屋つき下宿プロジェクト」の早坂拓紀(はやさか・たくのり)さん。北海道生まれ埼玉県育ちの早坂さんは、さいたま市で不動産事業を起ち上げ、空き家の利活用や相続対策などのコンサルティングを手がけてきました。また、スポーツによる社会連携事業にも携わっています。郡上の人から「君がここに来ることは100年前から決まっていた」と言われて、郡上への移住を決意したとか。そのいきさつと展望をお聞きしました。

田んぼのお世話や草刈りに勤しむ早坂さん(左)

田中)プロジェクトの主な活動は、八百屋と食堂がある下宿として始まった「タテマチノイエ」の運営と伺っています。郡上八幡に移住して10年、ゲストハウス「まちやど」を開業して5年となる、プロジェクトパートナー(PJP)の木村聖子さんの企画で、”地元民や移住者など、幅広い人たちが支え合う仕組みづくり”を目指していることのことですが、早坂さんはどのようにして郡上と出会い、プロジェクトに関わることになったのでしょうか?

早坂)2018年に、スポーツ・ツーリズムの視察で郡上に来たのが最初でした。ほかにも、友人から「郡上おどり」を勧められたり、不動産事業のお客さんが郡上の酒蔵のご親戚だったりと、まったく縁のなかった郡上に、3、4年前からちょっとした縁ができ始めました。それで、久々の旅気分で郡上を観光しに行ったんです。

そのときに地元の方とも話をしました。「これ、山から引いてんだよ」といただいた庭先の水がめちゃくちゃ手馴染みがよくて、なんともいえない感動があってすっかり虜に。その方には「君と会うことは100年前から決まっていた」とまで言われてしまって(笑)。そうなのか?(笑)って勘違いのような話ですけど、この旅をきっかけに本格的に郡上に通うことを決めました

家の2階の窓からは白尾山が一望できる

田中)このとき、埼玉では会社を経営されていたんですよね?

早坂)そうなんですよ。当時、埼玉で不動産売買や賃貸管理、コンサルティングを主な生業として、自らもプレイヤーとして活動していました。だから、郡上カンパニーの創業パートナー(VP)募集の説明会にも出席してみたのですが、ガッツリ関わるのは難しいと感じていたんです。

でも、再び郡上を訪ねたとき、今となってはPJPとなっている聖子さんが営む「まちやど」に泊まらせてもらったんです。まちやどに到着してから、聖子さんも郡上カンパニーのプロジェクトでVPをを募集していることを知りました。二人で話しているうちに「自分が適任だ」という流れになって(笑)

 

田中)どうしてそう思ったんですか?

早坂)聖子さんが考える「八百屋つき下宿」の目的は、空き家を活用したい人と、活用してほしい人をつなぐ基盤づくりだと解ったんです。であれば、不動産や相続関係の経験がある自分はそのサポートができる、と。
そこで、郡上とさいたまの二拠点居住を前提にエントリーしました。

 

田中)郡上で仕事をするにあたって、楽しみだったことはありますか?

早坂)人口減少下での事業づくりを学べることですね。これは今後の社会で必要になると思うので、郡上のような最先端の地域で、不動産の分野で貢献できるのはありがたいです。これからの時代に向けて、空き家を借りる人も貸す人も、そして使う人も含めて、”いい人生”にしていけるような、「お互い様」の関係性をつくりたいです。

 

田中)木村さんとは、役割分担がはっきりしているようですね。

早坂)自分には本業があるので、木村さんのフォロー役に徹しています。「裏方」というべきでしょうか。
事業として「タテマチノイエ」は、人件費2人分でやると収支が合わないのは分かりきっているので、こちらは聖子さんのプロジェクトとして進め、自分はその経験を基に新たな事業をつくる姿勢でいます。
自分のモチベーションは、ここで経験させてもらうことへの感謝であり、それらの経験で得たことを郡上に還元したいという思いが強いです。


仲間から買ったというミルでコーヒーを淹れてくれる早坂さん

田中)郡上カンパニーとしての期間は、最終年度になりましたね。

早坂)1年目は既存施設の活用方法を検討し、2年目で活用を広げ、3年目には事業全体で収益を生み出そうと思っていたのですが、その構想は完全にコロナ禍で崩れました。プロジェクト2年目の2020年に緊急事態宣言があり、「ご近所のことを考えると不特定多数の出入りがある宿は休業する方が良い」という決断をしたんです。

気付いたときには聖子さんは「宿の返済もあるし、働きに行きます!」と言って、すでに八幡町の公民館主事になってました(笑)。2020年は、聖子さんがそこで働きながら「宿業を長期的に運営するにはどうすればいいのか」を、一緒に考えてきた1年でした。

 

田中)そして2021年、新しい動きがあった、と。

早坂)そう、白鳥町にいい物件が見つかったんです。早速賃貸契約を結び、自分はこの物件に住みながら「タテマチノイエ」とは別の、もう一つの事業モデルを作りたいと思っています。
宿もそうですし、移住者の相談や、空き家活用の相談の窓口を設けたり。旅人だけでなく、暮らしに根ざした地元の人たちの発想を取り入れて、「誰と何ができるのか」を、訪れた人同士が見出して形にしていける、”きっかけの場”になったら面白いな、と。

八幡町の聖子さんの宿がきっかけで”郡上暮らし”を始めた人って、実際結構いるんですよ。なので、白鳥町の新しい拠点は、聖子さんから学んだことを自分自身が実行するモデルにしたいんです。
そして、開いた宿の運営は誰かに任せて、自分はまた空き家を活用して、次の宿や施設を開いていく・・・というように、次に次にと、繋いでいける流れを作りたいんです。


空き家の活用を始める物件の前で

田中)郡上暮らしを始めて、また「郡上カンパニー」に参加して、良かった点はありますか?

早坂)郡上カンパニーには、研修や交流など、郡上に根付くためのプログラムがあるんです。人との出会いや、地域で暮らす人々の”人生の在り方”から、郡上の魅力に入っていける・・・というところが、とても良かったです。
郡上カンパニーの仲間に「夜いかり」(夜にする川漁)に連れていってもらったんですが、圧倒的な自然を前にして、何か・・・自分でも何が起きているかわからない瞬間がありました。真っ暗闇の川の中で、感覚の冴えを感じていく・・・。「無の経験」っていうんですかね。自然と対峙する生き方、そういうことを求めてたから、ここ(郡上)に辿り着いたんだろうな、と思いました。

郡上に来てみて僕は、「会社をやってきた自負と、驕(おご)っていた面」、「(自身の中の)いい面と、悪い面」など、それぞれ両方あって今の自分がある・・・と、あらためて振り返ることができました。
郡上カンパニーのメンバーも含め、郡上に移住してきた仲間たちは、自分達のことを「成り行きの果ての集まり」と言い表すこともあるのですが、自分も郡上に流れ着いた、導かれた・・・といえるのかもしれない。なれの果てで、丁寧に、いろんな人からいろんなことを教わってます。

そんなこともあって最近、釣りを始めました。釣れないんですけど(笑)。ここが、「”釣れない宿主”がいる釣り宿」っていうのも面白いんじゃないか、と思ってるんですが、どうでしょう(笑)
というのはさておき、「自身の自然(じねん)」に触れる機会が郡上にはたくさんあるので、そういうものが必要な人の居場所になるような場、そういう人たちの”生き方”を伝えられるような場を創りたいです。

宿泊や共働事務所になる予定の部屋


笠を被り草まみれになりながらもにこやかに出迎えてくださった早坂さん。外にいても、座っていても、移動していても、途切れることなく楽しい話が続きました。郡上に暮らし始めてまだ3年だというのに、近所の方や仲間たちのことを古くからの付き合いがあるかのように愛着を持って話されていることが、とても心地よく響いてきたのが印象に残っています。それこそが「誰と何ができるのか」を探求する姿勢なのでしょう。地域活性・地域創生の文脈で感じる「誰」という言葉には知らずと高いハードルがあるように思うのですが、早坂さんをみているとその裾はとても広く、あらゆる人を迎え入れてはそれを新しい繋がり、新しい始まりに結びつけていくのだろうと期待させる包容力を感じました。
実は、私自身も「まちやど」がきっかけで郡上に移住した身。このプロジェクトがこの先どれほどの枝を増やし、どのような場を開いていくのか、とても楽しみです(2021年5月 取材)

早坂さんの郡上での事業拠点「株式会社つぎもり」:https://tsugimori.jp/

INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー。 一児の母。
徳島生まれ、京都育ちの転勤族。学生時代にアジア・アフリカ地域や日本の漁村を旅した末に、郡上にたどり着く。2015年、郡上市内の人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。2018年、フォトグラファーとして独立し、ニューボーンフォトや家族写真の出張撮影を行う。https://hyakoklens.com 

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