<インタビューvol.04 >売ることは僕に任せて、野菜作りに専念してもらいたい(水野恭助)

2018年からスタートした郡上カンパニー「共同創業プログラム」。中の人と外の人がつながりながら、郡上を舞台に数多くの挑戦が始まっています。昨年からは第3期がスタートし、現在は合計7プロジェクトが進行中です。
本シリーズではプロジェクトを進める人たちに焦点をあて、郡上で挑戦するみなさんへのインタビューを通して、郡上カンパニーの今を伝えます。


4人目は、「農産物発掘発信プロジェクト」の水野恭助(みずの・きょうすけ)さんです。愛知県に生まれた水野さんは中学・高校でバレーボールをしていて、以前は中学生のコーチもされていたそう。大学では商学部マーケティング専攻で、その後も販売に関わる仕事に携わられていました。都市部のデパートに出入りしていたような水野さんがなぜ郡上で、農業のプロジェクトに関わることになったのでしょうか? お話を聞いてみました!

水野恭助さん。おおらかな笑顔が印象的

田中)「農産物発掘発信プロジェクト」について教えてください。

水野)簡単にいうと、野菜を売ってます。
特徴は、今まで市場から小売へ、小売から消費者へと渡っていた農産物を、生産者から小売店に直接販売にしたこと。これにより、生産者は自分の野菜がどこで売っているか把握できるし、販売価格もわかるようになりました。

一般的には、農家さんは自分が作った野菜がどこに売ってるかも分からなくて、販売数を報告されるだけなんです。一方で生産者が持っている商品の情報は、消費者どころか仲卸業者にも伝わってない場合が多いんです。

日本の農業は衰退しつつあり、耕地面積も減っています。農家は働きに見合った価値が手元に残らないのが現状です。農産物の価値を消費者まで伝え、適正な利益を確保して販売できるようにするのが僕の役目です。

具体的には、プロジェクトパートナー(PJP)の奥村竜太さんが所属する有限会社ひるがのラファノス(郡上市高鷲町)の畑で育てた野菜を、都市部のスーパーマーケットや百貨店に出荷しています。

田中)農業を持続的に営んでいくための取り組みですね。

水野)農業の未来は、新しく就農した若い農家さんたちが安心して野菜を作れる環境を生み出すことにあると思うんです。
農家さんがまず不安なのは、経済面。販売できるところがあるのか、心配されています。だから、売ることは僕に任せて、農家さんには野菜作りに専念してもらいたい。

対価が見合わない仕事に若い人は来ません。でも、自分たちの農産物が名古屋の高島屋で販売されてるとわかったら、やる気も上がるでしょ? 「自分の作った野菜がデパ地下に売ってるんだよ!」って話したくなりますよね。有名百貨店での販売実績があると、小売店のバイヤーにも興味を持ってもらいやすいですよね。

田中)どんなお野菜が売れるんですか? ひるがのといえば、大根とか?

水野)そう思われる方が多いんですけど、売り上げはトマトがいいんです。大根も適正な価格で売れるようにしたいんですが、なかなかむずかしい。

売り場にとって一番いいのは、年間を通じて同じ品種を出せることです。でも郡上は10月から7月までは、寒くて野菜ができない。そこで郡上をメインにしつつ、冬場は同じ品種を別の場所で作ってもらって、安定して出せるようにしています。

郡上には野菜がおいしくなる環境があるから、「郡上産」というアピールを使わない手はないんですけど、郡上って、世の中では知っている人がそう多くないのも事実で。
郡上の人はみんな郡上が好きすぎて、「郡上の」という地名を推してしまうんですけど、そうすると商品自体の価値が伝わりづらい面もある。だから、僕は「郡上の、郡上の」と言わないです(笑)。それが都市部で郡上産を売るコツだと思っています。


ひるがのを流れる鷲見川。雨天でも透き通っている

田中)水野さんは、以前はどんなお仕事をしていたんですか?

水野)これまでも販売の仕事をしていました。繊維の卸業者に勤めて寝具を小売店に販売したり、直近までは食品販売を行う会社で、各地の農産物を百貨店に進出させたりしていました。

郡上カンパニーに参加したきっかけは、PJPの奥村さんが元からの知り合いで、僕が名古屋で働いているときに「やってみない?」って声をかけられて。それで、田舎でゆっくり暮らしながらできるならいいかなって(笑)。

でも、地方に住む覚悟みたいなものはなくて、考えものでした。だって不便そうじゃないですか(笑)。名古屋での生活にも不満がなかったし。田舎に行くのは好きだけど、住むのはイメージがつかないなあ、って。
ただ、つねに時間に追われた生活だったので、ゆっくり働けるのであればと思って決めました。

田中)郡上に来て生活が変わったことはありますか?

水野)ない! いや、飲みに行くのがなくなった(笑)。でも、できるはずだった「ゆっくりしたい」は……できてない。目覚ましをかけないで起きれるとか、そういうの求めてたんですけど(笑)。


PJPの奥村さん(左)が登場。以前からの付き合いで、息もぴったりな様子

田中)2021年のプロジェクトのスタートはどうですか?

水野)新型コロナウイルスの影響で、東海エリアにしか営業に行けてないんです。
本当は東京や大阪にも行きたいし、各地の展示会にも出たかった。大阪は元気な勢いが僕のスタイルと合うんですけど、今は新規で販促に行きづらい。人が集まる場所で販売できたら、認知度の向上にも繋げられるのですが、それがしづらい状況ですね。

今後は毎年安定して販売できる仕組みを作るのが目標です。
加工品の開発も手がけたい。人参、トマトあたりで、ミルクを使ったポタージュなんかもいいな、って思ってます。

大切にしているのは、商品本来の価値を伝えること。トマトや大根なら世の中にたくさんあります。単に「トマト」としか認識されなかったら、継続的に販売店で扱ったり、消費者が買ってくれたりしないでしょう。良い商品と生産者の持つ情報を消費者まで届けることで、みんなが喜んでもらえるようにするのが僕の仕事だと思っています。

まだ郡上の中でも高鷲地域の一部の生産者さんからしか買い取りできていないので、少しずつその範囲を広げ、生産面積と生産品目も増やしていきたいですね。

田中)これからの農業経営と水野さんの活躍に期待しています! ありがとうございました!

大根を出荷するトラックの前で


郡上カンパニー以前からの付き合いであることもそうですが、奥村さんと取り組むプロジェクトに惹かれて水野さんが郡上に来られたことからも、聞いているだけでお二人の信頼感や安定感のようなものが伝わってきました。
そんなお二人が、農家さんたちが最も手を貸して欲しい「販売」の部分を担うプロジェクトをスタート! 適正価格で野菜を販売し、かつ年間を通じて百貨店にもお野菜をおろせているというのは心強いはずです。事務所の周りにも若手農家さんが何人も見え、期待が高まりました。加工品などの展開にも興味がわきますが、果たして水野さんに「ゆっくりした田舎ライフ」がくるかどうかも、見守りたいと思います。
(2021年5月 取材)

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INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー。 一児の母。
徳島生まれ、京都育ちの転勤族。学生時代にアジア・アフリカ地域や日本の漁村を旅した末に、郡上にたどり着く。2015年、郡上市内の人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。2018年、フォトグラファーとして独立し、ニューボーンフォトや家族写真の出張撮影を行う。https://hyakoklens.com 

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