<インタビューvol.06>秘境・小川が持続可能になる足がかりを小川の人たちと一緒に考え、作っていけたら(大橋俊介)

2018年からスタートした郡上カンパニー「共同創業プログラム」。中の人と外の人がつながりながら、郡上を舞台に数多くの挑戦が始まっています。昨年からは第3期がスタートし、現在は合計7プロジェクトが進行中です。
本シリーズではプロジェクトを進める人たちに焦点をあて、郡上で挑戦するみなさんへのインタビューを通して、郡上カンパニーの今を伝えます。


6人目は、「持続可能な秘境をつくる! 明宝小川プロジェクト」の大橋俊介(おおはし ・しゅんすけ)さんです。大橋さんは岐阜県出身のご両親のもと、愛知県名古屋市で生まれ育ち、福祉関係の仕事に従事されていました。そんな大橋さんがこのプロジェクトで、郡上でも”秘境”といわれる明宝小川地区で、古民家の活用や再生可能エネルギー事業に取り組んでいます。小川の地域づくりについて伺いました

再生中の古民家の二階からみた小川の風景

田中)山間で過疎化も心配される小川地区ですが、プロジェクトパートナー(PJP)の西脇洋恵(にしわき・ひろえ)さんは「未来の原石」があるとおっしゃっていますね。源流域の美しい水や空気、祭礼や地芝居などの文化的風土、地域活動のつながりなど・・・。プロジェクト参加を決めたとき、大橋さんはどこに魅力を感じたのでしょうか?

大橋)面白いと思ったのは、都市部ではなく、中山間地だからこそできることがあるところです。小川という地域が「世界から知られる小川」になるとしたら・・・という可能性も、とても楽しみだなと思いました。
 テレビや新聞などで紹介される観光地の成功事例ってたしかに魅力的なのですが、残念な部分もたくさんあると思うんです。人は一度来ても、マイナス面に気付くと、もう行かなくなる。だから僕は、人が集まることだけが成功だとは思っていません。大勢は来なくても、ずっと気にかけてくれたり、いつまでも通ってくれる人がいること、小川で生まれ育った方が戻ってくること、小川に越してくる人がいることが成功なのだとして、小川の未来を考えています。

田中)実際に小川で暮らしてみてどうですか?

大橋)環境の変化には正直、苦労しました。買い物は大変ですね。昨年の夏は長雨と豪雨が重なり、峠が通行止めになりましたし、雨の影響で野菜も育たず苦労しました。冬は積雪も多く、凍結した峠道の運転も怖かったので、大変だな・・・という気持ちが今でもあります。
 小川に移り住んで、右も左もわからないところで、果たして新しいことができるのだろうか?と、手探りながら、それでも小川が”持続可能な地域になる”こと、そして”地域内に雇用を生み出す可能性”に懸けて、一歩ずつプロジェクトを進めてきました。
今こうしてプロジェクトが形になりつつあるのは、多くの方のご協力があるおかげです。本当に感謝しています。

古民家の2階のスペースには、養蚕などで使う古道具が保管されている

田中)プロジェクトでは、どんな活動をされていますか?

大橋)スタートは、空き家となっていた古民家の再生です。この古民家を「地域の外と内をつなぐコミュニティスペース」として、プロジェクトの柱となる「集落体験事業」を展開する予定でした。その第一歩として、「古民家修繕」と「自然体験」を組み合わせて地域外から人を呼び込み、外の人の力を借りながら手入れをしていく「参加型の修繕ツアー」の開催を当初は企画していました。
 ところが新型コロナウィルス感染拡大の影響で、2021年度はツアーの開催が保留になってしまいました。外から人が呼べなくなったので、現在は地元の大工さんにお願いして、できる工程を少しずつ進めてもらっています。
「古民家修繕」は最初、室内に残置物がたくさんあって中に人が入れない状態だったので、まずは片付けから始めました。一通り片付けるのに、一年近くかかりました。
ある程度片付いた後で地元の大工さんに入っていただいたのですが、外壁や電気の工事が進むにつれ、最初のころとは古民家の様子がずいぶん変わってきました。土間だった場所にも新しく部屋ができましたし、他の古民家からいただいてきた畳を敷いて、奥の部屋はすでに使えるようになっています。

田中)外観は変わっていないとのことですが、趣があって素敵ですね。小川での体験事業のほうはどうですか?

大橋)プロジェクト当初は、僕自身も集落体験や自然体験の事業で講師をするイメージを描いていたのですが、実際に小川に来てみると、今後の1、2年の経験だけでは、僕が講師を担うことはできないと思ったんです。
そこで、岐阜県主催の「エネルギー地産地消フォーラム」や、「次世代エネルギー研修」に参加させていただいたことをきっかけに、”持続可能な秘境・小川”を実現するためには、自然に恵まれた小川の地域資源を生かした「小水力発電」が役立つのではないか・・・と考えるようになりました。
こうして、地域の人々で小水力発電をてがけるプロジェクトが立ち上がります。この動きに合わせて、PJPの西脇さんからは、空き家活用について、ワーケーションの拠点や小水力発電事業の事務所にするという構想が生まれてきました。
「地域の外と中を繋ぐ」という、西脇さんの思いであり、古民家再生の当初の目的をどのように実現するか、今も考えています

電気がついたときの喜びを語ってくれた大橋さん

田中)小水力発電事業ですか?

大橋)このプロジェクトでは、古民家再生事業とは別に、小水力発電事業に向けても動き出し始めました。
 昨年、岐阜県の「令和2年度 小水力発電による環境保全推進事業」に応募したところ、採択していただけたんです。そこで自治体組織で長年地域づくりに取り組まれている「小川ふるさとづくり委員会」さんと「NPO法人地域再生機構」さんの協力を得て、小水力発電について地域の人が自ら学び、実践する、体験型の「自然エネルギー学校」を開催しました。
自然エネルギー学校では、県から受けた助成で150Wの発電ができる小さな水車発電機を設置しました。またこれに必要な制御機器や、導水管などの資材も購入しました。
購入した機器や資材を、自然エネルギー学校の中で参加者の皆さんと一緒に組み立てや設置をしながら、地域での小水力発電のメリットやデメリット、事業の可能性、
環境とのつながりなどを学習しました。
「自然エネルギー学校」では、発電した電気を活用するために、ポータブル電源も4台も購入しました。蓄電された電源は持ち運んで、古民家の照明などに活用しています。持ち運びができるので、停電や災害時には、地域の交流センターでの非常用電源としての利用も想定しています。

 この活動をきっかけに、あらためて”小川の持続可能な地域づくりに向けた、小水力発電について”を、地域のみなさんと話し合いました。「できるかどうか分からないけどやってみよう」と、多くの人に賛同いただき、PJPの西脇洋恵さんとご主人の徳近(なるちか)さん、地域再生機構さん、自然エネルギー学校に参加してくださった方々と一緒に今年、事業化を実現するための法人設立に着手しました。
 法人設立の検討にあたっては、地域の皆さんが集まり「どういったことが、小川の未来をつくる地域づくりにつながるのか」について、一緒に考えました。そうして法人設立のための準備や地域のみなさんへの説明会の開催、書類作成、金融機関との調整や資料作成などを経て、2021年5月、地域の人々が中心となって出資する「合同会社小川エコビレッジ」が設立されました。
これから中部電力との接続契約の交渉や手続きなどを経て、およそ2年後には発電事業を開始できるようにしたいと考えています。

「自然エネルギー学校」で地域の皆さんと一緒につくった小水力発電機

発電機の横に設置された制御装置。大橋さんが手にしているのがポータブル電源

田中)郡上カンパニーでのプロジェクト期間終了後は、大橋さんはどんな関わり方になるのでしょうか?

大橋)この事業は、”地域のみんなが、地域のために続ける”というものにしたいんです。だから、プロジェクトの中心は小川で生まれ育った方たちや現在小川に住まわれている方たち、そしてこれから小川に暮らす人たちだと思っています。その中で僕は、サポーターのような役割に徹したいと考えています。
 利益を生む事業にするためには大変なこともたくさんあって、売電益の使い方など、不確定要素ばかりですし、進んでいた企画が白紙に戻ることだってあります。事業に必要な莫大な資金は借りないといけませんが、この借入金を返すのにも20年かけていくわけですからね。
だから郡上カンパニーを終了した後が「持続可能な秘境をつくる!明宝小川プロジェクト」の本当のスタートだと思っています。地域にとって大きなプロジェクトなので、郡上カンパニーで3年間の準備期間をいただけたことは、とてもありがたいと思っています。
自分の仕事としては、再生可能エネルギーに関する別の会社を個人で立ち上げたいと考えています。そこで手がける事業は利益のためではなく、脱炭素や雇用創出、社会課題や環境問題の改善に繋げるものにしたいと考えています。

田中)別の会社なんですね!

大橋)郡上カンパニーを知る前から、オフグリッドや脱炭素に興味がありました。
実は、僕自身は”山から引いてくる水で、家庭で電気がつくれる”というくらいの、とても小さな規模の発電をやりたいんです。でも勉強する中で、この発電方法では事業としての費用対効果を得るのは難しいと分かったので、小川の地域づくりとしては地元の人たちといっしょに、大きな規模の発電方法を導入することにしました。
 まだ課題はあるのですが、僕がここに住み続ける中で、自然に恵まれた小川だからこそできる生き方を提案し、小川がこれからも”秘境”として持続可能になっていくための足がかりを、小川の人たちと一緒に考え、ともにつくっていけたらと思っています。

田中)小川は、冬はスケートリンクができるほど冷え込むけれど、人があたたかいと聞きます。豊かな秘境の里がずっと残ってほしいですね。大橋さん、ありがとうございました!

古民家の外観


 郡上八幡から峠を超えた先、いつも独特な浮遊感で出迎えてくれる小川地区。集落の中ほどにある古民家の中で、黙々と作業されている大橋さんが出迎えてくれました。何度も強調されていたのは、小川の人たちが主役であるということ。ここに暮らす人たちが納得感や充足感を得られることは何かをいつも問いながら進めていくという、とても根気のいることを続けてこられた静かな情熱を感じました。
 小川で暮らすことを正直に「大変」だと語る大橋さんが今後この経験を個人の事業にどのように展開されるかを伺いに再度訪問できるのを楽しみにしています。(2021年5月 取材)

INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー。 一児の母。
徳島生まれ、京都育ちの転勤族。学生時代にアジア・アフリカ地域や日本の漁村を旅した末に、郡上にたどり着く。2015年、郡上市内の人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。2018年、フォトグラファーとして独立し、ニューボーンフォトや家族写真の出張撮影を行う。https://hyakoklens.com 

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