郡上から世界へ。ものづくり底上げプロジェクト

2019年4月からスタートする、郡上カンパニーの第2期共同創業プログラム。現在8つのプロジェクトで、共同創業者を募集中です。各プロジェクトの郡上に住むプロジェクトパートナー(PJP)に順番にインタビューをしていく本連載企画。2人目は、郡上市出身のアートディレクター上村大輔さんです。


 

「ものづくり底上げプロジェクト」とは?

上村大輔さん(以下、大輔さん)の本業は、アートディレクター。それだけでなく、郡上の地場産業であるシルクスクリーン印刷業を営むお父さんの会社では、プリンターや専務取締役としての仕事もあります。2016年には名古屋事務所ジユウノハコを開設に携わり、2018年からは名古屋モード学園で講師も務めるなど、多方面で活躍する大輔さん。

「現在は、お菓子のパッケージデザインや店舗のロゴデザインを含めたブランディング、あとギャラリーの空間デザインなどもやらせてもらっています。元々はほとんどが郡上の仕事だったんですが、最近では、東海エリアを中心に様々なプロジェクトに関わっています」

そんな大輔さんがこれから取り組む「ものづくり底上げプロジェクト」はどのようなものでしょうか。

「郡上のものづくりの底上げをしようと、郡上の職人さんやクリエーター、メーカーさんと一緒に商品開発をし、「郡上逸品」というローカルブランドを育ててきました。これからは、世界に通用するようなクオリティを追求し、郡上を日本有数のものづくり市にしていきたいんです。 そのためにも、年に1度は海外の展示会に出て商品の発表をしたいと思っています。発表した商品を展示販売するギャラリーショップも運営して、例えば、郡上おどりの期間など、年間で何回か期間を決めて、日本中の人が郡上に見にこられるような場所にしていきたいです。」

 

■ぐるっと外を見てまわって郡上へ帰ると、見えるものが変わっていた

郡上高校を卒業した大輔さんは、愛知県の大学に進学。「デザイナーへの漠然とした憧れもあったけど、どちらかというと郡上が嫌すぎて出たんだ」と、当時抱えていた郡上へのコンプレックスを吐露してくれました。マクドナルドもなく、洋服を買いにいくのに2時間もかかるということが、10代の若者にとっては堪え難かったのです。

大学でデザインを学ぶ傍らアパレルのベンチャー企業で働き、自分の作ったものを世に出していく経験をします。ここで、デザイナーとしての喜びや大変さを知っただけでなく、今あるデザインスキルの原型も培いました。

「自分たちがデザインした服が目の前で売れていくんです。それをみんなが着てくれるのを見るのは、作り手にとって一番嬉しい事でした。 郡上を出て10年が経つ頃には、自分で1から10まで物を作れるようになっていたので、どこででも生きていけると思っていたんです。だったら世界から見て自分の立ち位置はどこにあるのか見てみようって気になりました」

そうして大輔さんは、4ヶ月かけてヨーロッパ諸国からモロッコまで、約15の都市をぐるっと回りました。転機はその直後に訪れたといいます。帰国した大輔さんはふと、自分の生まれ育った郡上に目を向けていなかったことに気がつき、郡上の旧7町村をじっくり回ることにしたのです。

「そしたら、あれ? 郡上ってこんなに面白かったっけ?! って思ったんです。町を見渡すと、良いものも悪いものも、かっこいいものもダサいものも、脈々と続いてきた営みも、全部ぎゅっと一緒に詰まっている。自分が生まれ育った町なのに、これまで何を見てきたんだろうと、驚きました。

こんなに素晴らしい場所だったのか、と郡上への愛情が一気に深まりました。誇らしかった。デザインという目線で見たときに、磨けば光ると思えるものもたくさんあって、ここでやろう、自分たちのまちを自分たちで面白くしよう、という思いが芽生えたんです」

何もないと思っていたはずの故郷に、世界のどこにもない魅力を感じた大輔さん。外に出ているうちに大きく物の見方や感じ方が変わっていたことに、大輔さんは衝撃を受けました。自分の立ち位置を知る旅は、意外なところに辿り着いたのです。

大輔さんがいつも眺めている風景(写真:上村大輔)
■「自分で」から「みんなで」。 世界でも類を見ないような面白い町にしていきたい

郡上に拠点を移した大輔さんは、結婚して夫婦で「Takara Gallery」を創業しました。自分の好きな版を組み合わせて、郡上おどりの三種の神器といわれる手ぬぐいをつくることができる、シルクスクリーン印刷体験工房です。

「この頃は、郡上を面白くする様々なアイディアを、志を共にする相方(堀義人さん)と練り始め、『自分たちでやってやろうぜ!』って気張っていたのですが、動き始めると郡上の中には自分と同じように企んでいる人が沢山いたんです。『こんな人おるんや!』っていうような面白いプレーヤーと、ロールプレイングゲームみたいに1人また1人と出会いました」

郡上を面白くするためにできることを、みんなで夜な夜な話し合い、企画していた7年ほど前を振り返りながら、最近の郡上にも当時と重なる期待感があると言います。

「いろんなデザイナーが出てきているよね。あいつ、いいフライヤーデザインするようになったなとか、あの子いよいよイラストレーターとしての道を切り開きはじめたなとか、そういう活躍を見ているのは面白いし、嬉しい。

みんなで、郡上を世界でも類を見ないような面白い町にしていきたい。そして、いずれ郡上は観光地というだけでなく、個々のもつ強いエネルギーに惹きつけられるような場所にしていきたい。ここはそういうエネルギーを持った人が、ニョキニョキと出てきて育っていく町であってほしいんです」

■ 「郡上逸品」の立ち上げ。 郡上の工芸の知恵を世界に広める

郡上には、昔から百姓達によって脈々と紡がれてきたベンチャー精神と、長良川に育まれた奥深い工芸文化があります。郡上本染、郡上絣(かすり)、郡上竿、魚籠(びく)、水舟などはその一部で、希少な技術や知恵が手から手へと受け継がれてきました。しかし、今では担い手不足が深刻で、どれも廃業の危機に晒されています。

それを何とか食い止めるべく、大輔さんは2012年に「郡上ものづくりプロジェクト」を発足させ、工芸職人とメーカーを橋渡しし、いくつもの新しい商品を開発してきました。例えば、郡上に欠かせない暮らしの道具である水舟(*)を桶職人とつくったこともあります。やがてこのプロジェクトは「郡上逸品」というポップアップショップ(期間限定のお店)を兼ねたローカルブランドに発展しました。

その取り組みから6年。商品を生み出す土壌ができ、販売先も増加。町が前向きに変化していく様子をみた大輔さんは、「世界に対して勝負ができるクオリティを追求していくステージにきた」といいます。

世界を回ってきた末に郡上に根付こうと決心した大輔さんが、なぜまた世界に目を向けるのでしょうか? 尋ねてみると、自分の関わったプロダクトが世界でどう評価されるのかを知りたいのだと、即答。少し間をあけてから、「日本の文化、考え方といったらいいのかな…」と、再び話し始めました。

「いい文化って生活の中に当たり前にあるんです。例えば、ほうきやたわしとか。こういうのはあるのが当たり前すぎて、この形が何を伝えるためにあるのかに目を向けることはほとんどありません。職人さんと関わり始めてからは、日本の道具に対してそういう目線で見ることを意識しました。そのうち、日本の工芸品に込められている考え方や合理性を知れば、世の中もっと良くなるんじゃないかと思うようになって、であれば、もっとわかりやすい形にして世界に伝えることが、今すべきことなんじゃないかな。」

大輔さんは、2019年4月にイタリアで開催される展示会「ミラノサローネ」に「郡上逸品」でのエントリーを済ませています。「面白いよ、超大変だけど。修行だと思う」と、はにかんだ笑顔で語る大輔さんからは、郡上のみんなで次のステージへと踏み出す期待と、それをリードしていく使命感が感じられました。

(*)「郡上八幡特有の水利用のシステム。湧水や山水を引き込んだ二槽または三槽からなる水槽のうち、最初の水槽が飲用や食べ物を洗うのに使われ、次の水槽は汚れた食器などの洗浄。そこで出たご飯つぶなどの食べ物の残りはそのまま下の池に流れて飼われている鯉や魚のエサとなり、水は自然に浄化されて川に流れこむ仕組みになっています。 」(「郡上八幡観光協会」より抜粋)

 

■一つのことを突き詰めて考える。  ものづくりも、人生も、そこから学ぶ

結婚指輪がそうであるように、例えばシルバーという素材やデザインだけでなく、選んでいた時のこと、初めて着けた時のこと、あるいは失くしてしまって探し回った時のこと…そんな苦楽を重ねたストーリーも物としての価値を生みます。

「やっぱり大事にしているのはストーリーだよね。使用できる形にデザインされるからストーリーが生まれる。ストーリーがあるから物としての価値が生まれる。物を作る立場として、その物が何のためにあり、何が伝えたくてこういう形になったかというのを、常々意識するようにしています」

大輔さんは、物事の表にも裏にも注目し、その背景に広がる膨大な話を丁寧にひもとき、自分の言葉で説明してくださいます。こした、大輔さんの考え方のベースはどこにあるのでしょうか?

「ばあちゃんの実家が真言宗のお寺というのもあって、仏教の考え方が好きなんです。何のために生きるのか、仕事するのか、とか空(くう)ってなんだ?とか知りたくなるじゃないですか。全部深すぎて、勉強すればするほど遠ざかっていくんですけど、一つのことを突き詰めて考え続けていると、『これがあの意味かな?』って気づくことがあります。そう追求することって、生きる道を考えることに似てると思うので、割と仏教観というのが元にある気がします。」

お坊さんは世の中をよくするために修行をする。その周りにはいつも、一生懸命に祈る信者の姿があります。大輔さんのいう「修行」の言葉に感じられるのは、過酷さや忍耐という一般的なイメージよりもむしろ、応援してくれている人の存在でした。

「自分も何のために仕事をしているかといったら、依頼してくれた人の何かをポジティブにするためだと思うんです。一生懸命働くのも、誰かの為と外に向けていれば、応援してくれる人が広がっていくんです。」

■ 日本有数のものづくり市となる未来を描く

「このプロジェクトには、ディレクションができる人に来てもらいたいです。各地から招集したデザイナーと協同することも想定しているので、商品の方向性を調整したり、ゴール地点を設定したりできる人を求めています」

膨大なアイディアを持ち、形をつくれる大輔さんですが、「進行管理がすごい苦手」とパートナーの必要性を話します。アイディアを形にするまでのスケジュールを立て、管理してくれる人がいると、プロジェクトは加速できそうです。 ここまでずっと仕事の話をしましたが、大輔さんは趣味の時間も大切にする人。仕事と切り離して没頭する時間も大切だと話してくれました。

「オフの時は、一心不乱に作りたいご飯を作ります。作ったものを食べてもらうのが好きなんです。子どもといるのも面白くて、一緒に風呂に入ることもいい。音楽も好きで、パーカッションもやっています。流行や最先端の技術に触れにいくことも面白いですね」

アイディアの源はあらゆるところに散らばっています。仕事中であってもなくても、好奇心を持って物事を見つめていると全てがその源になるのです。「仕事だけでなく、郡上の暮らしを最高に楽しむ知恵をシェアします」と話す大輔さんと共に、郡上のものづくりの底上げを企てませんか?

プロジェクト詳細はこちら:郡上から世界へ。ものづくり底上げプロジェクト

 

PROJECT PARTNER

上村大輔

(かみむら・だいすけ)1981年12月23日生まれ。郡上八幡出身・アートディレクター・真剣勝負の36歳。本業はアートディレクターです。創業 45年のスクリーン印刷屋のせがれで、印刷もします。 名古屋モード学園講師しています。夫婦で、てぬぐい印刷の体験スタジオも運営しています。 自己紹介が長くなってめんどくさいので、なにか簡潔に伝えられるいい言葉を探しています。 1 歳8ヶ月の息子が話すオリジナル言語にそのヒントがありそうで、今のところ無い。 趣味は料理。顔に似合わずカレーが好きです。

INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈

たなか・かな/百穀レンズ フォトグラファー、ライター、デザイナー。 1988年徳島生まれ、京都育ちの転勤族。大学で建築学を専攻中にアジア・アフリカ地域を訪ね、土着的な暮らしを実践することに関心を持つようになる。辿り着いたのが岐阜県郡上市。2015年より同市内にある人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。在来種の石徹白びえの栽培にも生きがいを感じる日々。2018年、独立。

 

 

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