【対談】高校生ナビゲーター × AD古井 「将来なりたいのは”変な大人”?」

「小さい頃から、”ここ”で育った。”ここ”は好きだ。でも、怖かった。将来、自分の力で生きていけるのか。そこまでたどり着けるのか。……怖かった。」
制服姿の女の子のセリフで始まる、「郡上カンパニー」のドキュメンタリー。この動画でインタビュアー、そしてナビゲーターを担当しているのは、郡上高校3年生の岡本弥生さんです。
10代・20代のときに誰もが抱える、人間関係や進路のモヤモヤ、目の前の出来事や将来へのワクワク。そこに「地元」が交差した時、果たして彼らは何を感じ、今後の進路にどう影響するのでしょうか?
「地域・地元」と学生のときに関わった岡本弥生さん、そして筆者の対談から、地元と学生の関わりを考えます。


【登場人物の紹介】

岡本弥生(おかもと・やよい)
2002年生まれ、郡上高校 3年生。小学生の時に、家族で静岡県から郡上市に移住。高校の課題研究の授業で、郡上の移住者へのインタビューを実施、郡上の魅力は、新しいことにチャレンジする大人たちであり、その人々をかっこいい大人=「変な大人」だとした発表を行い、在校生から多くの共感を得る。郡上カンパニーのドキュメンタリービデオにインタビュアー兼ナビゲーターとして出演。21年春から岐阜県内の大学に進学。

古井千景(ふるい・ちかげ)
1996年生まれ、中津川市在住、フリーランス。大学生の時に、地域・社会課題に興味を持つようになり、ボランティアや学生団体での活動や、地元のNPOでのインターンシップをおこない、webマガジンの編集長を務める。大学卒業後は、起業支援やライティングの仕事をしている。郡上カンパニーアシスタントディレクター。


 

千景) まずは、弥生さんの「地域」との関わりを教えてもらえますか?

弥生)高校2年生の時に始まった、自分の決めたテーマを探求する「課題研究」の授業がきっかけです。進学を考えていたのが保育の大学なので、はじめは保育と自分が好きな音楽を掛け合わせた研究をしようと思っていたんです。でも、同級生で保育をテーマにする人が多かったので、「周りとかぶるのやだな。人と違うことしたい!」と思って、テーマを変えました(笑)
 最終的には「移住」をテーマにしたのですが、それは自分が小学生の時に郡上に移住してきたことと、友達が「郡上ってなんもないよな」「早く郡上を出たい」と言うのを聞いて、「郡上のいいとこって、自然とかはあるけど、他は何があるやろう?」って疑問に思うようになったことがきっかけですね。

岡本弥生さん

千景) 「移住」っていう言葉は、高校生には聞き慣れない言葉だと思うけど。郡上に移住した人とは、それまでも会うことはあったの?

弥生)小さい頃は、近所の移住者の人と一緒に音楽をやったり、英語を教えてもらったり … そういう交流はありました。ただ、その時は遊んだり話していただけで、深い話はしたことなかったんです。
 今回の課題研究でのインタビューでは、その人が郡上に来る前、来た後の考え方や生活を聞きました。逆にみなさんからは、自分の進路についてアドバイスをもらったりもしましたね。


千景) 進路については、皆さんはなんて言ってたの?

弥生)「一度は郡上から出て、外の世界を見てきなさい」って、みんなに言われました。

古井千景さん

千景) みんなそう言うんだ(笑)。実は私も大学3年生の時に、弥生ちゃんみたいに周りの大人に進路のアドバイスをもらってたの。その時は「地元にいなよ」と言う人、「地元から出なよ」と言う人、「せっかく大学新卒なんだから大企業に就職しなよ」って人、それから「起業しなよ」って人…と、みんな意見はバラバラだった。あまりにもみんなバラバラだったから、地元にいても、そうじゃなくても、何してもいいんだな、ってことが分かった(笑)

弥生)郡上生まれ・郡上育ちの学校の先生は「郡上に戻ってきなさい」って言うけど、正直、納得いかないんです。もちろん郡上に戻りたいとは思っているけど「これから郡上を担うのはあなたたち」とか言われるのは、それは重くて。


千景) その点で言うと、今回の弥生ちゃんの課題研究の発表は「戻ってきなさい」というより、「郡上に来た人は、こうやって言ってるよ」っていう、手紙のような感じだよね。
そこから「郡上カンパニー」のドキュメンタリーに参加するきっかけはなんだったの?

弥生)課題研究で「ふるさと郡上会(※)」の方にインタビューしたのがきっかけで、そこから声をかけてもらいました。最初は「郡上カンパニーとは?」と思いつつも、どんな大人がいるのかな?と、参加するのが楽しみでした。(※郡上市の移住相談窓口。郡上カンパニー事業の事務局でもある)

郡上カンパニードキュメンタリービデオより

千景) 課題研究でもいろいろな郡上の大人に会っていたと思うけど、郡上カンパニーの撮影はどうだった?

弥生) 課題研究では、どちらかというと郡上に来てからのことを中心に聞いていたんですけど、郡上カンパニーの撮影では、メンバーのみなさんに郡上に来る前のこと、みなさんがこれまでどういう道のりを歩いてきたのかについてを、たくさん聞きました。


千景) 郡上カンパニーは「郡上の人と、外から来た人が、いっしょに新しい事業をつくる」っていうものだから、郡上カンパニーの周りの人たちは、またちょっと特殊な人たちだよね。

弥生)高校生からしたら「なんでこんな何にもないところに来るの?」っていうのが、まず不思議。その上で、(見知らぬところで)新しいことをするのって、不安とか恐怖とかつきものだと思うんです。でも、誰もそんな感じがしなくて。みなさん、目がキラキラしていて、「やりたいことがたくさんある」と話していたのが印象的でした。
全員、“ポジティブ!”“めっちゃ前向き!”“怖いもの知らず!”って感じで。「変な大人だな〜」って思いつつも、そこが魅力的だなって思いました。
 進路のこととか、学校の先生からの期待とか、人間関係とか … 悩むことがたくさんある私たちにとって、前向きで、ポジティブで、「変な大人」って、かっこよくて。撮影はすごく楽しかったです!

千景)動画に出てくるセリフがすごく印象的です。
 「大人に言われたままに、進路を選ぼうとしていた。それが”当たり前”だと、思っていた:
 「将来どんな大人になりたいのか、考えられなかった。でも”ここ”で、「かっこいい」大人と出会った」
 「これまでの”当たり前”が、少し違って見えた。」
・・・などなど。それこそ、大人に言わされてるんじゃないかと心配したけど(笑)。あれは弥生ちゃん自身の気持ちなの?

弥生) 動画のセリフは全部私の本心で、本当にあのままが自分の気持ちです。原稿はあったけど、違和感があったところを全部自分の言葉に直して、最終的なセリフになってます。

千景) セリフの中で、「大人に言われたままに、進路を選ぼうとしていた」っていうのは?

弥生) 中学生の頃は、音楽をやっていたこともあって、音楽をやりたい、高校を卒業したら音楽の専門学校に行きたいとずっと思っていたんです。でも、色んな大人に「それで将来、安定した生活ができるの?やめておきなよ」って言われてしまって。

千景) 中学生が「それで、安定した生活できます!」なんて言い返せないよね。

弥生) すごく悔しかったです。結局、高校では保育の勉強をして、子ども好きだし、大学も保育の道に進むことにはしたけれど、「いつか見返したろ!」って今も思ってます。大人の心配はありがたいけど、絶対将来は自立して、(自分で選んだ道で)ちゃんと一人で生きていけるんやよ!って、見せつけたいです。

千景)進路の話でいうと、高校で配られる、大学偏差値表とか、自己分析ツールとかあるよね?質問にチェックを入れて「Aにチェックが多い人はこれが向いています」って出るやつ。ちょっとは参考になるけど、自己分析ツール見てるだけじゃ、これが本当に自分の好きなことなのかは分かんないよね。

弥生) インターンとか実習も大事だけど、もっと早い段階で、色んな人と関わっていたら違う進路だったのかも、とも思います


千景) 弥生ちゃんにとって郡上の人は、「会いに行ける、一番影響を与えてくれる人」って感じなのかな?

弥生) そういう感じですね。いろいろな人から、色んなことを教って、自分から郡上の人と関わることが大事だなってこの1年ですごく思いました。もともとFacebookを使っていたので、大人と関わったり、情報を得る機会が多かったことと、郡上高校の総合学科は地域と関わることが多かったので、地域の大人の方々とは縁があったなと思います。


千景) 逆に言うと、高校生が地域の大人と出会うためには、元から関わる機会が多い高校生でないと、自分から情報を取りに行かないと出会えない、とも言えるよね。Facebookやってる人なんて10代、20代でほぼいないけど、どうしたらいいと思う?

弥生) 行事とか座談会とか、学校で大人に出会える機会があればいいですね。最近は郡上高校もそういうことをしていて、いいなぁって思います。地域の人と出会って、いろんなことを経験して、自分が興味あること、好きなことを見つけられるといいのかなって。

2020年度より全国の高校で本格的に始まった「総合的な探究の時間」
郡上高校では「大人との対話の時間」も実施

千景) そうだよね。文理選択でも「生物にも保育にも興味があって…定期テストだと数学の方が10点高いから、理系にしようかな」みたいな決め方をする子もいるじゃん。そんな決め方でいいの…?って思うんだけど、でもそれしか目の前にない。

弥生) 私は、子どもは好きだし、もっと勉強したい気持ちもある。でも、もし早くに郡上の人と関わっていたら、どんな進路を選んでたのかな?・・・って。
(課題研究に関連して)観光のことや地域活性について調べたり本読んだりしたのも、研究でライター的なことをしたのも楽しくて。そういう道もいいな、と思ったけど、でも進路を決めた後だったから、ちょっと遅かったな。


千景) 大学行ってからも色々できるし。それに、大学を2つ、3つ行ったっていいじゃん!

弥生) そう!留学も行きたいし、関東にも行ってみたい。これからが楽しみです。
なりたいのは、今は「保育士」じゃなくて、「変な大人」になるのが目標。だいぶ考え方は変わりました。
 大学で保育士の資格をとって、郡上に戻ってきたら、子どもと音楽の掛け橋になるようなことをやりたい。まだ誰もやっていないので、自分が一番最初にやりたいです!


千景)「変な大人になる」っていう目標、どうやって叶えたい?

弥生) 「変な大人」にも、いろんな人がいると思うので、いろんな人と関わりたいです。
色んなところに行ったり、色んなことを吸収したりして、「変な大人」になれたら・・・というか、早く「変な大人」の仲間入りがしたい(笑)


千景)弥生ちゃんみたいに、色んな「変な大人」に出会って、“これから”にワクワクできる高校生が増えるといいね。

弥生)みんなが「変な大人」になったらもっと楽しいし、そういう人たちが集まったら、ものすごいパワーになると思います。
移住者に限らず、郡上で生まれ育った人たちで頑張ってる人も一緒。その人たちのおかげで、郡上の活気があるんだな、って。
同級生のみんなにも、もし郡上に帰ってきたら、郡上の価値を高められる大人=「変な大人」に、なろうぜ!って、いいたいです。

千景) 私も、自分の同級生たちが「帰って来たくなる」「帰ってきたい時に帰ってこれる」地元にできるように、「変な大人」として頑張ります(笑)

(2021年2月 取材)

 

【特別映像】 岡本さんの課題研究発表〜移住者インタビューを通して気づいたこと

【動画】岡本弥生さんが出演した「郡上カンパニー The Documentary -1-」

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