<インタビューVol.02 >地域全体で唄う「ひびき合う酒造り」をみたくて(深尾和代)

2018年からスタートした郡上カンパニー「共同創業プログラム」。中の人と外の人がつながりながら、郡上を舞台に数多くの挑戦が始まっています。昨年からは第3期がスタートし、現在は合計7プロジェクトが進行中です。
本シリーズではプロジェクトを進める人たちに焦点をあて、郡上で挑戦するみなさんへのインタビューを通して、郡上カンパニーの今を伝えます。


2人目のベンチャーパートナー(VP)は、共同創業プログラム第3期の深尾和代(ふかお・かずよ)さん。愛知県のご出身です。郡上に来られる前はハローワークに勤務し、学生や留学生の就職支援に関わってこられました。人が生き生きとくらす場所について考えるようになってから、自然や伝統文化が豊かな郡上にはよく通っていたそうです。

深尾さんが取り組む「ひらかれた蔵プロジェクト」は、自然が奏でる音やこの土地の文化と人が繋がり響き合うこと、里山の風景を未来に繋ぐことなどをモットーにした、酒造りの企画です。郡上市大和町の酒蔵「平野醸造」の杜氏・日置義浩(ひおき・よしひろ)さんがプロジェクトパートナー(PJP)として発案。VPの深尾さんといっしょに地酒の新ブランド「HI TSUKI GOSEI(日月五星)」を立ち上げました。2020年から、木桶で醸すお酒「郡上風土酒」と、米作りから酒造りまでを一貫して手がける「一から百酒」をリリースし、ブランドを育てています。

掛け合いのように楽しげにやり取りをする日置さん(左)と深尾さん(右)

田中)深尾さんは、どうして郡上で酒造りに携わることになったんでしょうか?

深尾)私、ずっとお酒を造りたかったんですよ!
2019年2月に平野醸造で開催された「蔵開き」に来たのが、今のプロジェクトに関わることになったきっかけでした。到着時には予定されていた蔵案内はもう終わってしまっていたのですが、ちょうどそばにいた日置さんが気さくに案内してくださって。

田中)その日置さんの計らいから、今のプロジェクトが生まれたと言っても過言ではないわけですね。

深尾)その後もご縁があって、平野醸造が開催した田植えにも参加しました。「おっもっしっろー!!!」ってなって、それから平野醸造に通い始めたんです。そのころに郡上カンパニーの共創ワークショップも始まり、新しい仲間たちと新しい酒造りの企画をし始めました。その中で、木桶でお酒を造りたい、という願いを伝えたのですが、日置さんに「絶対嫌!」って言われてしまって。

田中)どうして嫌だったんですか?

日置)(ワークショップで造ろうという酒は)夏に造るもんで、酸っぱくなる。昔は造ってたけど、大変やって知っとったもんで、嫌やった。でも、「木桶で造ろう」と共創ワークショップの人たちがワーワー言ってくるんや(笑)

提案を緩やかに受け入れる日置さんの器の広さに人が集まるのだと感じる

深尾)杜氏に嫌と言われたら諦めるしかなかったのですが、それでもお酒造りができるなら十分ありがたいと思って、その後も郡上カンパニーのワークショップに参加しながら平野醸造に通いました。
ワークショップでは、仲間たちと小豆島(香川県)の「木桶復活プロジェクト」の研修に行き、木桶づくりの工程を学びました。その後、平野醸造の蔵の中に壊れたまま眠っていた木桶を発見して、日置さんに「直していいですか?」って聞いたんですよ。了承を得て、郡上の木桶職人の田尻浩(たじり・ひろし)さんのサポートを受けながら、壊れた木桶の修復に成功しました!

日置) 直してしまったもんで、造るしかないもんで。

深尾) 修復の最中も、いろいろ問題はあったんですけどね。日置さんには「いつまでかかっとるんや!」って怒られたりしてました(笑)。

日置) はははは。なんやかんやとありながらも、深尾さんは役割分担しながら支えてくれてありがたいですね(笑)。

深尾) そうやってできたのが「風土酒」です。


販売を開始した「風土酒」を片手に笑顔の深尾さん

田中)念願のお酒造りに携われて、もうすでに新しく2ラベルも完成しているのを見ると、とても順調そうですね。

深尾)いやあ、郡上に来た当初は、住むところも変わる、仕事も変わるで、すごく不安定になって。無気力で、どうしたらいいかわからない時期がありました。

田中)そうだったんですね! 2020年の4月に郡上に移り住まれて、12月からお酒造りでしたが?

深尾)それが、なんとかギリギリ間に合って、気力が復活して。日置さんの隣で、できることをやらせてもらいました。いやあ、楽しかったー! 日本酒の香りがなんとも好きで、たまらないですね。

田中)回復されてよかったです。酒造りとなると、これまでの仕事と、まるで環境が変わるんでしょうね。

深尾)これまでは1対1で人に向き合う仕事が多かったのですが、今は日々変化の中で選択していくことが求められていて。杜氏や平野醸造、地域の人やボランティアと、関わる人が多くなったので、何をベースに選択していくのか、とても考えさせられています。

田中)でも、とても前向きなエネルギーを発していらっしゃいますね。遠い先がしっかり見えているような。郡上カンパニーのプロジェクト終了後については、どういうイメージをお持ちですか?

深尾)なんていうのかな・・・。自分としては、郡上にとってとても大事なことをしていると思ってるんです、思い込みなんですけど。木桶の復活がそうだったように、酒蔵に古くから受け継がれてきたことを復活させて、継続させていきたい。地元の人や県外の人も関わって協力し合って。酒好きでなくとも声や唄で響き合えるような。そう、「ひびき合う酒造り」。地域全体で、歌って、田植えをする。もう山なりがするくらい大勢でする田植えを見てみたい。(※)

※「風土酒」のために、郡上伝統の祝い唄を保存する「祝い唄継承会」によって、酒造りの祝い唄が新たに作詞された。また「一から百酒」では、田植え唄を歌いながらの米作りを始めている。

写真キャプ>

田中) すごい具体的! わくわくしますね。深尾さんが描くイメージに向けて、まずは順調な滑り出しでしょうか?

深尾) そういえば ・・・ イメージしていたことはわりとできてますね(笑)

日置) 地元の米をだいぶん使うようになったなあ。これまでは(酒造り用に)地元でつくる米はゼロで、初年度は四反半、今年は七反半、なんとか頑張ってやっさる。これからはもっと米の生産量も上げていきたい。あと、蔵には広い室(むろ)があるので、みりんも作りたいな。コロナ渦で飲食はどこも時短営業やもんで、酒は売れんで。

深尾) だから「HI TSUKI GOSEI(日月五星)」は、これまでのお酒と違う売り方、打ち出し方をつくっていかないと、と思っています。これからは営業に出かけて、どういう人が手にとってくださっているかと顧客分析をしていきたいと思っています。


 まず印象的だったのが、深尾さんのエネルギッシュさ。「もともとお酒が作りたかった」という熱量がこのプロジェクトを通して、以前に増して高まっているのを感じました。米づくりは年に1度。たった2サイクルを回す間に風土酒と日月五星という、2つの全く違うアイディアの日本酒が誕生していることからも、日置さんが深尾さんの熱量をとてもうまく迎え入れておられるというパートナーシップの良さが伺えました。
 「ひびき合う酒造り」という誰がきいても楽しそうなビジョンが、年月を重ねながらどのように表現され、平野醸造を中心にどのようなコミュニティが出来上がっていくのかがとても楽しみです。
 次回は、プロジェクトの進捗や深尾さんのこれからのチャレンジについて、より深くお伝えします!(2021年5月 取材)


平野醸造の販売所前にて

HI TSUKI GOSEI( FB): https://www.facebook.com/hitsukigoseigujo

INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー。 一児の母。
徳島生まれ、京都育ちの転勤族。学生時代にアジア・アフリカ地域や日本の漁村を旅した末に、郡上にたどり着く。2015年、郡上市内の人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。2018年、フォトグラファーとして独立し、ニューボーンフォトや家族写真の出張撮影を行う。https://hyakoklens.com 

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