<インタビューvol.05>グランピングを楽しんでくれてるお客さんと接して、事業の新しいイメージが沸きました(川端あゆみ)

2018年からスタートした郡上カンパニー「共同創業プログラム」。中の人と外の人がつながりながら、郡上を舞台に数多くの挑戦が始まっています。昨年からは第3期がスタートし、現在は合計7プロジェクトが進行中です。
本シリーズではプロジェクトを進める人たちに焦点をあて、郡上で挑戦するみなさんへのインタビューを通して、郡上カンパニーの今を伝えます。


5人目は、「Campingなカフェプロジェクト」の創業パートナー(VP)、川端あゆみさん(旧姓 金子あゆみさん)。新潟県出身でプロスキーヤーであるあゆみさんは、郡上の高鷲(たかす)町に移住後もスキースクールをしながら、グランピング*やトレーラーレンタルなど、多数の事業に取り組んでいます。また、プロジェクト中にプロジェクトパートナー(PJP)である川端孝哉(かわばた・たかや)さんとご結婚されました。公私にわたるパートナーシップでさらに広がりを見せる活動について、あゆみさんと孝哉さんのお二人に伺います。

*グランピング=「グラマラス(魅惑的な)」と「キャンピング」を組み合わせた言葉

 


VPの川端あゆみさんとPJPの川端孝哉さん 取材のためにこのセットアップで出迎えてくれた。

田中)あゆみさんと孝哉さんは、グランピングのサービスを中心に、宿泊できるトレーラーのレンタルや、ファームでの野菜作り、SNSでの発信、スキーのレッスンをする「スノーアカデミー」、パーカーやTシャツなどのアパレル販売、キッチンカーでの飲食業と、本当にいろいろな活動をされていますね。

あゆみ)MOUN10s(マウンテンズ)という組織的な動きとして、プロジェクトを展開しています。一番の目的は、春夏秋冬の郡上の良さを発信していくこと。今はグランピングをベースにしています。

田中)グランピングはテントや食事があらかじめ用意されていて、ちょっと豪華なアウトドア体験を気軽に楽しめるキャンプスタイルですよね。

孝哉)はじめは、郡上に来る夏と冬のお客さんを交流でつなごうという思いで、キッチンカーでの移動カフェを運営していました。そこから事業として、500円の商品でお客さんを待つ商売ではなく、1万5千円の価値を1組限定で提供しようという方向になって。それで、ロケーションの良いところで”グランピングカフェ”をする考えがまとまりました。

田中)具体的には、どんなサービスを提供されているんですか?

孝哉)テントを含めたグランピング空間の設営をして、たとえば「gu-ni」(郡上市白鳥町のイタリアンレストラン)のシェフを呼んで青空レストランをするとか。

田中)それ、かなり特別感がありますね!

あゆみ)シェフが一組のために、料理を振る舞ってくれるわけですからね。とても好評ですよ!

田中)あゆみさんは活動を始めて、郡上カンパニーの仲間たちともつながりはありますか?

あゆみ)そうですね。3年目でみんなそれぞれのプロジェクトの基盤ができてきて、ようやく自然にコミュニケーションを取って話ができるようになりました。みんな同時に創業をスタートしているから、良い点や悩みを聞けたり、刺激にもなるし、ライバルにもなる。「私一人だけ悩んでるのかな?」 と思うこともあるけど、そうじゃないんだと気付けたり。
パートナーとけんかしたときには、息抜きにもなります。みんなの事業が、郡上で広がっていくことが楽しみです。

孝哉)プロジェクトの先輩の経験は参考になりますね。

VPの川端あゆみさん(手前)とPJPの川端孝哉さん(奥)

田中)お二人はプロジェクト中にご結婚されたとか。事業のパートナーとしての役割は変わりましたか?

あゆみ)夫婦になったことで、やるしかない! と覚悟が決まりましたね。孝哉くんがリードしてくれています。

孝哉)僕が事業のアイデアを出して、あゆみがアイデアに色を付けてくれる感じですね。

あゆみ)孝哉くんは趣味が仕事になっていて、ストレスがないんです。郡上では、遊びが仕事になるのを理解している。
郡上に移住する人って、仕事以外が充実してる人が多いですよね。”田舎暮らし”に憧れてくる人は多いけど、実際の生活は不便なこともある。でもいろいろな楽しみがあるから、ここに居続けられるのかもしれませんね。

田中)郡上の暮らしは、不便だと感じられますか?

あゆみ)不便ですね(笑)。例えば買い物は、移住する前は直接お店に買い物に行けたけど、今は通販で買うことが多くなりました。ただ、不便だけど理想の暮らしです。

田中)新潟から郡上に移住してみて、他にはどうでしたか?

あゆみ)郡上は、冬でも新潟より人が多くいる感じがしますね!
それに、地域の人が応援してくれる。スーパーの店員さんも声をかけてくれます。
また新潟ではスキーヤーだから冬の仕事はあるけど、夏の仕事がなかったんです。今回の「郡上カンパニー」のプロジェクトでは「スキーヤーが夏にもできる仕事を作ろう」というものなので、これなら移住できるな、と。これから暮らすには、スキー場もある高鷲はベストだと感じていました。

孝哉)あゆみのスキーヤーとしての発信力を活かして、郡上の魅力を伝えていけたらと思っています。
プロジェクトを始めて、今はほぼ自分のやりたいこと、好きなことができていますね。情報発信にも力を入れていますが、SNS経由でテレビの取材もきて、番組でグランピングが紹介されたりしました。

田中)これからもますます注目されそうですね。

あゆみ)私ははじめ、ファミリーキャンプってそんなにお金がかかる、高額なイメージなかったんです。でも、うちでは10万円相当のテントとかを使ってるんです。最初は「そんなに高くてお客さん来るの?」 って思ったりしたけど、孝哉くんのやり方を見たり、実際に楽しんでくれているお客さんと接したりしている中で、私の視点が変わりました。この価値が分かったから「一人2万円の参加費でも、私も払うな」って。

孝哉)もっと工夫して、楽しんでもらえるようにしたいと思っています。シェフを呼んでコース料理を作ってもらうこともそうですし。キャンプに来て、食事時になってテーブルに着いたら、シェフが目の前で腕を振るってくれるんですよ!参加した方からは「これだけのサービスがあって、安すぎないか? 」と言われます。この前は、参加者でバウムクーヘンを作って、とっても楽しそうにされてました。
キャンプで泊まる以外にも、マウンテンバイクに乗ったり、荘川(高山市)まで温泉に入りに行ったり、火起こしをしたり・・・。泊まる以外にも、いろんな体験もできますしね。
こういうコンテンツがそろってくると、地域として強くなる。地域としても参加者としても、お互いに得するグランピングですね。もっと工夫して、訪れた人に地域全体で楽しんでもらえるようにしたいと思っています。


取材先のキャンプ場「WoodMatchM」の入口

田中)2020年からの、コロナ禍の影響はどうでしょうか?

孝哉)コロナ禍でのキャンセルももちろんありました。でも、内容をさらに詰める期間にしています。近々新しい設備でバーベキューもできるようになりますし、お客さんは絶対また来てくれると思います。
本当に自分たちが求める未来を、自分たちでたぐり寄せていきたいです。

田中)前向きですね!

孝哉)実は最近、キッチンカーを購入したんです。これまではキャパシティが足りなくて、せいぜいお客さんは数人の規模で、かつシンプルな料理しか提供できなかったんです。キッチンカーを導入することで、野外で数十人分のコース料理を作れるようになるんです。
今までで一番大きな投資だから、気合いを入れて料理や体験のメニューを考えています。テレビや他メディアの取材も自信を持って呼べるし、話題になると思っていますよ。キッチンカーを1組のゲストのために使うというサービスは、コロナ禍の需要にもマッチすると思っています。
キッチンカーを1組のゲストのために使うというサービスは、コロナ禍の需要にもマッチすると思っています。キッチンカーの中に入れる冷蔵庫はとても大きくて、100人くらいの食事提供まで対応できるようになる予定です。
 当初はこれほど大きな投資になるとは思ってなかったんですが、いろんなアイデアが合体して新しいイメージが生まれました。特に女性のお客さんには見た目の印象も大切なので、テントや小物、全体の場づくりとか、小さなことにもこだわっています。

 

発注したキッチンカーのデザインを見せていただいた

田中)女性には「可愛い!」 とか「素敵! 」とか、そのつかみは大事ですね!
孝哉さんは、今後の郡上の移住促進についてはどういった考えをお持ちですか?

孝哉)僕は、地元で事業をつくる人を育てたい。若い子を、どんどん高鷲に連れてきたいと思っています。
プロジェクトでは、昨年夏に一人仲間を入れました。プロジェクトを拡大して、あと2人の雇用ができるようにと、事業を進めています。

あゆみ)孝哉くんは仕事もするけど、休みの日は若い子と一緒に遊んでますね。孝哉くんが楽しそうにしてるので、「一緒に働かない?」と声をかけると、人が来てくれる。
誰も知り合いがいない土地に一人で移住したら、普通は孤立してしまうと思うんです。でも孝哉くんはすごく面倒見がよくて。外から来た子と地元の子を繋いだり、あちこち連れ回してくれる。

孝哉)出会った人とは、仲良くしたいんです。高鷲って家と家の距離がかなり離れているんですが、離れているからこそ、出会う人はみんな”仲間”として大切にしています。
「出会った人を大切にする」というのは、高鷲で教わったこと。「そうでないと、ひとりぼっちになってしまうよ」って。これは高鷲のいい文化だと思う。
 郡上に移住してくる人が、もっと増えてほしいと思いますからね。外から来た人に「ここいいね! 」って言われるのはやっぱり嬉しい。これからの活動も「一番いい季節に、一番いい場所でやる」という当初の思いを、変わらず大切にしていきたいです。

田中)新しく導入するキッチンカーのために、孝哉さん、あゆみさんとも「牽引免許」を取る予定とのこと。今後はイベント出店も楽しみですね。ありがとうございました!

<取材協力>
予約制でプライベートを保ちつつゆったりしたキャンプが楽しめる「WoodMatchM(ウッドマッチム)


取材場所であるキャンプ場に到着するや否や、テントやタープ、シェルフやランタンなど、ワクワクする空間に誘われました。取材のためとはいえど、あゆみさん、孝哉さんの提供したい世界観や想いをとぎらせることなく、この事業と向き合う姿が目にも心にも焼き付きました。
 これまでVPというと、プロジェクトをぐいぐいと率先して引っ張っていくイメージでしたが、あゆみさんのお話しを聞いていると、彼女はPJPの強力なフォロワーだなと思いました。アイディアと実行力のある孝哉さんとのパートナーシップの今後も、プロスポーツと新規ビジネス、そして郡上での暮らしなど、新たな方向性の力を発揮されていくことが楽しみでなりません。(2021年5月 取材)

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INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー。 一児の母。
徳島生まれ、京都育ちの転勤族。学生時代にアジア・アフリカ地域や日本の漁村を旅した末に、郡上にたどり着く。2015年、郡上市内の人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。2018年、フォトグラファーとして独立し、ニューボーンフォトや家族写真の出張撮影を行う。https://hyakoklens.com 

 

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