<インタビューVol.03 >一度しかない自分の人生について考えるきっかけとなるような「本物」の体験を(進藤大明)

2018年からスタートした郡上カンパニー「共同創業プログラム」。中の人と外の人がつながりながら、郡上を舞台に数多くの挑戦が始まっています。昨年からは第3期がスタートし、現在は合計7プロジェクトが進行中です。
本シリーズではプロジェクトを進める人たちに焦点をあて、郡上で挑戦するみなさんへのインタビューを通して、郡上カンパニーの今を伝えます。


3人目は、「another home gujoプロジェクト」の進藤大明(しんどう・ひろあき)さん。東京で大学在学中に映画産業を学び、卒業後はCMやプロモーションビデオなどの映像制作に携わってきました。現在は「郡上を第二のふるさととして、何度でも帰ってきてもらえるように」との願いを込めて、旅や映像を通した、人と人をつなぐ場づくりに挑戦しています。

進藤大明さん。自宅玄関先につくられたアウトドア・ダイニングで話を伺った

田中)まずは、どんなプロジェクトか教えていただけますか?

進藤)another home gujo(AHG)は都市部の若い人や企業研修向けに、郡上の自然の中で過ごすツアーとコミュニティづくりをしています。お金を払って参加して消費するだけのツアーではなく、一人ひとりの心が動いて自分の内面に触れるような旅の企画が特徴です。郡上に根付いた文化や郡上の人と出会える「本物」の体験を共有することを目指しています。

田中)内面に触れる、というと?

進藤)たとえば、今の生活を飛び出したいけど、どこにも行けない。何のために仕事を頑張っているのかわからない・・・。
かつての自分もそうだったように、そんな若者がたくさんいるだろうなと思っていて。郡上で自然や歴史に触れたり、出会った仲間と遊び、安心できる居場所を提供することで、一度しかない自分の人生について考えたり、本当の豊かさが何なのかを考えるきっかけにできたらと思っています。

田中)旅のコンテンツ以上に、人と人がつながることを大切にしているんですね。これまでにどれくらい開催されたんでしょうか? 手応えはありますか?

進藤)2020年は13本のツアーを企画し、企業研修も1つ受け入れました。
やりがいはあります。ただ、僕自身は今までツアーの仕事をしたことがなかったし、僕がこれから知識や経験を積んだとしても、3年後にこれ一本で食べていくのは無理だと思った。
 そこで今のビジョンとしては、自然体験ツアーに加え、映像プロダクション事業を主軸にしていきたいと考えています。ツアーはプロジェクトパートナーの由留木正之(ゆるき・まさゆき)さんが、できるときに開催することになりました。あと、家族で移り住んだ古民家「源右衛門(げんねもん)」でゲストハウスができたらと構想もしています。

田中)お二人で役割分担するかたちになったんですね。

進藤)そうですね、ゆるさん(由留木さん)とは同じゴールを持ってると思っています。

田中)由留木さんは、山や川、狩猟など、郡上のあらゆる師匠たちから30年以上にわたって自給自足の術を教わっている方ですね。由留木さんと協働しはじめて、自分自身で感じる変化はありますか?

進藤)シダ植物を見て春が来たな、と思うようになりました(笑)。
東京にいるときって季節の移り変わりを感じてなかったんですよ。郡上にいると、今日の空は夏っぽいなとか、山の広葉樹の色が変わったことで1年巡ってるなとか、気付くようになりました。

 東京では学生の頃からずっと、映像の仕事に向かって突き進んできたんですよね。移住を決めたのは、もうそろそろ自然の中で遊びたいなって。山登りとかキャンプとかしたくなって。
で、郡上に来たらそれがすでに叶って日常になって、今では憧れの暮らしが逆に分からなくなってます(笑)。

山から読み取れるものを学んでいく日々がが楽しいそうだ

田中)映像制作は今後も柱とされていますね。何か手がけたいイメージはありますか?

進藤)大きなゴールはツアーと同様に、郡上の地域に根付いた資源を活用して都会の人に新しい価値観を提示すること。テーマのひとつは癒し、もうひとつは、里山での暮らしを伝えることです。
郡上ではさまざまな「生きる知恵」を蓄積している師匠たちと出会えて、本当に貴重な経験なんですけど、僕はまだその知恵や姿を言語化、視覚化してきていないんです。だから、クリエイターとしてアウトプットしていきたくて。

田中)その師匠たちにもまた師匠がいて・・・。数千年の歴史があるんですもんね。彼らが肌で感じ、目で見たことばかりだからこその本物の知恵ですね。

進藤)今は、映像をどう作るかを突き詰めたい。最初のころは無理してたなって思ったんですよ。かっこよくしようとしてるというか。
今年5月にAHGで「受け継がれる伝統の味 無農薬のお茶葉摘み、お茶揉み」というツアーを主催して、お茶摘みの映像も作ったんですけど、そのころから、空とか、ツアーの空気感みたいなのを撮るようになりました。。

another home gujoのyoutubeチャンネル

田中)なぜ無理しなくなったのでしょう?

進藤)「なんもないけど、なんでもある」って、よく言われるやつですけど、ただの風景なんだけどそれが豊かであるというか。ただの暮らしなんだけど、それがどんなふうに郡上の自然に育まれてきたのかとか。そういうのが見えるようになってきたんです。
 以前は、映像を見てくれる人がどう感じるか自信がなかった。でも、郡上に来て自分が住んでいるところが魅力的だなと思えるようになって、自信のなさみたいなものはあまり感じなくなりました。個人でも自然と暮らすというテーマで作品を撮ろうと、「MATATABI works」という映像レーベルを立ち上げました。

田中)この先はどんな展開になっていくんでしょうね!

進藤)正直、郡上カンパニーの卒業後にどうなってるかは、まだわかりません。絶対郡上にいないといけないとも思っていなくて。でも、ここにいると本物を見る力を養えるし、いろんなプロジェクトに参加できる。それを発信できる環境があるというのは嬉しくて。

田中)そんな場に浸ってしまったら・・・?

進藤)結局ずっと郡上にいるんじゃないのかなとも思います(笑)

田中)はははは(笑) 私もそう思っていて結局郡上にいる1人です。郡上の磁力は怖いですね。(笑)また進捗を伺えるのを楽しみにしています!


古民家「源右衛門」の2階スペース


 これまでの暮らしに違和感を覚え、理想の暮らしに向かっていよいよ動き出した進藤さん。事業内容だけではなく、暮らしもひっくるめて次の生き方をつくる伴走をしているという点でも郡上カンパニーはとてもユニークな取り組みだなと思いました。郡上の師匠たちと時間を共にし、これからの暮らしについて思い巡らすこのツアーは参加者一人ひとりにとって、とても大事なインパクトになることでしょう。そのことからも「another home gujoプロジェクト」も新しい暮らしに向かう人を応援する循環をつくっていくきっかけになるのではと、楽しみです。「源右衛門」がどのように開かれていくのかも注目していたいと思います。(2021年5月 取材)

another home gujo(YouTube)
MATATABI works( YouTube)

INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー。 一児の母。
徳島生まれ、京都育ちの転勤族。学生時代にアジア・アフリカ地域や日本の漁村を旅した末に、郡上にたどり着く。2015年、郡上市内の人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。2018年、フォトグラファーとして独立し、ニューボーンフォトや家族写真の出張撮影を行う。https://hyakoklens.com 

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