<インタビューVol.01 >「人生は何度でもやり直せる」で、前向きに考えられました(山根さき)

2018年からスタートした郡上カンパニー「共同創業プログラム」。中の人と外の人がつながりながら、郡上を舞台に数多くの挑戦が始まっています。昨年からは第3期がスタートし、現在は7プロジェクトが進行中です。
本シリーズではプロジェクトを手がける人に焦点をあて、郡上で挑戦するみなさんへのインタビューを通して、郡上カンパニーの今を伝えます。


さて一人目は、「踊りの町に新たな産業を。郡上メイドな鼻緒プロジェクト」の創業パートナー(VP)山根さき(やまね・さき)さん。郡上市の出身で、幼い頃にひるがの(郡上市高鷲町)で木曽馬と触れ合って以来の大の馬好きだと、とても楽しそうに話してくださったのが印象的でした。馬好きが高じて市外の高校、そして農学部のある東京農業大学へ進学。卒業後は東京の百貨店にて農産品を販売する仕事に従事されていました。


第3期 創業パートナー(VP) 山根さき さん。手にしているのは「さをり織り」の鼻緒が挿げられた下駄

田中)さきさん、こんにちは。まずはプロジェクトについて教えていただけますか?

山根)「踊りの町に新たな産業を。郡上メイドな鼻緒プロジェクト」は、郡上の踊りに欠かせない下駄の鼻緒が郡上で生産されていないことに着目し、鼻緒づくりを郡上に暮らす子育て期の女性や高齢者、障がい者などの雇用創出につなげていこうとしている取り組みです。
郡上ブランドを育てていくために、さをり織りやシルクスクリーンなどの郡上の素材を活用したメイドイン郡上な鼻緒が続々生まれていますし、マスクや浴衣などさまざまな商品展開にも力を入れ、新たな産業づくりを目指しています。

田中)なるほど。お手持ちの下駄もメイドイン郡上の下駄の1つですか?

山根)そうです。これは、さをり織りでできた鼻緒です。

田中)触った感じも優しい色合いも素敵ですね。郡上カンパニーを知ったのはどのようなタイミングだったんですか?

山根)東京で転職を考えているときでした。正直なところ、当時の会社生活や都会生活に疲れてしまって。だからといって転職しても、また同じように疲弊するのだろうと思っていたので、郡上カンパニーの話を聞いたとき、もしかしたらそのループから抜け出せるきっかけになるかもしれないと思ったんです。

田中)それはいいタイミングでしたね!

山根)そうなんです。その後、プロジェクトパートナー(PJP)の吉澤英里子(よしざわ・えりこ)さんに連絡して面談に行きました。
「自分の経験で果たして役に立てるのか?」と、自信はなかったんですけど、「やれることをやりたい」と思いました。実は、鼻緒というものにすごく興味があったというわけではなかったのですが、このプロジェクトの『産業をおこす』という最終的な目標に共感したんです。同級生と話していても、「郡上に帰りたいけど仕事がない」というのが合言葉になっていることもあって。

浴衣のオンライン販売会が行われるカフェ・Chocotteからみえる吉田川

田中)なるほど。もったいないですよね。

山根)東京で働きながら、自分も「いつか地元の役に立ちたい」という気持ちはやっぱりずっとあって。吉澤さんと話をしているうちに、それに挑戦するタイミングは今なんじゃないかと、だんだん高まってきた感じでした。

田中)では、すぐに気持ちは固まったんですか? 不安だったことはありましたか?

山根)正直、3年は長いって思ってました(笑)

※郡上カンパニー「共同創業プログラム」は、市からVPへの委嘱期間は年度ごとに再契約がされ、最長3年間従事することができる。

吉澤)そうだったね。そう言われて「人生は何度でもやり直せるし、やらないことより新たに進めてみることのほうが大事だと思うから、まずは1年と思ってやってみては」と、伝えたんです。

山根)それで前向きに考えられて、郡上カンパニーに参加することにしました。

田中)最初はどういったことを?

山根)『花篭』に立つところから始めました。花篭は、八幡町の城下町にある創作和小物店で、このプロジェクトの拠点です。私も鼻緒を作ってみたんですけど、早々につくる側は自分には合わないなって分かって(笑)。今は接客やSNSを使った情報発信に力を入れています。

吉澤)そうそう。鼻緒は別の人に任せて、彼女の得意なところをやってもらいつつ、お店のことや周りのことを知ってもらえればいいかなと。やっぱり、彼女は接客している時が一番いい。


「花篭」にはカラフルな和雑貨がたくさん

田中)東京での働き方と変わったことはありますか?

山根)来店された方から、八幡町のオススメの場所を聞かれることが多いんです。郡上出身でも八幡町のことは全然知らなかったので、休みの日はぐるぐる町歩きをしたり、いろんな人に会うようになりました。町の人からは「さきちゃんどこにでもいるね」と言われるくらい(笑)。そうして今は、お客さんと話しながら、八幡のオススメの場所をご紹介するようになりました。

田中)おー! 百貨店では他のお店を紹介したりすることってなかなかなさそうですもんね(笑)。職場の捉え方が店舗から町に広がったようなイメージでしょうか。

山根)そうですね。オススメの場所を訪ねてくださったあと、帰る前にわざわざお店によって「楽しかったよ」と言ってくれる人もいて、そういうのは嬉しいですね。

田中)それは嬉しいですね。1日で2回会えるって特別感ありますし、そうやってファンができていってるんだろうなって想像ができます。


「花篭」外観。和雑貨に加えカフェではオリジナルドリンクなども提供

田中)さて、プロジェクトの進捗はいかがですか? 昨年と今年は新型コロナの影響で、郡上おどりや白鳥おどりも中止になってしまいましたね。

吉澤)なにせ踊りがないので、踊りグッズは売り先がなく……。それでも事業を継続していけるかたちにしなくてはと、浴衣の販売やカフェ事業など、複数の柱で事業の継続を目指す方向に切り替えています。
浴衣の生地の買い付けも行っていて、これなんかは五平餅柄です(笑)。いろんなカラーバリエーションもあってすごく可愛くないですか?

新しく仕入れた五平餅柄の生地。カラーリングもまた可愛い

田中)え、めちゃくちゃ可愛いですね! こんな柄の浴衣なかなかないのでは?!

山根)ですよね! しかも、これ二部式浴衣になっていて。

田中)二部式浴衣? 初めて聞きました。

山根)上下2ピースになっていて、浴衣の着付けができなくても簡単に着られるようにできているんです。

二部式浴衣の着方を説明してくださるPJPの吉澤英里子さん(写真右)

田中)素晴らしいアイディア! これは浴衣を着るハードルをだいぶ下げられそうですね。どのように販売されているんですか?

山根)最近はインスタライブ(Instagramの生放送)で、オーダー会というのをしています。私が販売予定の浴衣を着用し、フォロワーの方々とタイムリーにやりとりをすることで注文を取れたらと。

田中)楽しそうですね!

吉澤)見てくださっている人から「次はこの色を着て」とか「あっちのはどうなってるの?」とコメントをいただく度に、さきちゃんがどんどん着替えてくれます。

山根)定期的にライブをしているので、そのときはぜひ見て、コメントをいただけると嬉しいです。

田中)「3年は長い」と言いつつ、郡上に戻ってきて1年以上が経ちましたね。

山根)郡上出身とはいえ、同年代の友達もいないし大丈夫かなと思っていたんですけど、郡上カンパニーの他のプロジェクトの人とも研修を通じて仲間になれたり、ここで暮らす中でIターンの人にもUターンの人にも、ほんとにたくさん知り合うことができたので、わりと早いうちに不安は解消されました(笑)。

田中)それはよかったですね。チャレンジするにも、仲間や友達の存在って大事ですよね。


 実は鼻緒にあまり興味がなかったというさきさんのカミングアウトから始まったこの取材。「なるほど、こんなパターンもあるのか」と興味深く話を聞きました。
踊りのない夏を2度過ごすという先の読めない状況下、彼女の関心の広さやチャレンジ精神が事業の展開に前向きな風を吹かせているように感じました。プロジェクトを決め込んで邁進するあり方はもちろんのこと、こうしてVPが持ち合わせたギフトがどのような場面で活かせるのかを、郡上という広いフィールドで探索しながら事業をつくっていくあり方も、郡上カンパニーのユニークなところだと思いました。
同級生たちが帰りたいと思った時に帰って来れるような地元にしたいという根底の想いのもと、今後彼女がどの方向に舵を切っていくのか楽しみです。
次回は、プロジェクトの進捗や山根さんのこれからのチャレンジについて、より深くお伝えします!(2021年5月 取材)


Chocotte 外観

花篭 (IN) : https://www.instagram.com/hanakago_gujo/

INTERVIEWER / WRITER / PHOTOGRAPHER

田中 佳奈(たなか・かな)

百穀レンズ フォトグラファー。 一児の母。
徳島生まれ、京都育ちの転勤族。学生時代にアジア・アフリカ地域や日本の漁村を旅した末に、郡上にたどり着く。2015年、郡上市内の人口約250人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。2018年、フォトグラファーとして独立し、ニューボーンフォトや家族写真の出張撮影を行う。https://hyakoklens.com

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