「郡上の小中学生が世界大会で上位入賞」のロボカップって何がすごい?教えて、ちゃみ先生!

2021年11月。郡上ロボットクラブのチーム(中学2年生と小学6年生、4名)が、「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」の「ロボカップジュニアリーグ」の競技で、なんと2位、3位に入賞しました!
すごい!・・・すごいけど、何がすごいのか、実はよく分かりません(汗)
そこで、「郡上ロボットクラブ」を主催する宮崎倫明さん、通称「ちゃみ先生」に教えていただきました。宮崎さんは、郡上カンパニー共同創業プログラム第1期のプロジェクトとして「郡上ロボットクラブ」をはじめ、郡上のICT教育の開発を手がけました。


郡上ロボットクラブを主催する、ちゃみ先生こと宮崎倫明さん

日本から始まった世界大会「ロボカップ」

入賞おめでとうございます!・・・でも、「ロボカップ」ってなんですか???

ちゃみ)公式ガイドブックによるとですね・・・。
ロボカップは、1997年に日本からはじまった世界大会です。この大会ではまず、「2050年までに、サッカーで人間の世界チャンピオンチームに勝てる、自律型ロボットのチームをつくる」を目標にしました。なんでサッカーかというと、サッカーができれば他のこともできるだろう、という仮説からです。
名古屋大会からはじまり、ヨーロッパやオーストラリア、アメリカ、中国、東南アジア、南米など、毎年世界で開催されています。2017年の名古屋大会では、42カ国から研究者、学生など、2,500人を超える人が参加したそうです。年を追うごとに参加者が増え大会が大きくなったので、2017年から「アジアパシフィック(アジア大会)」ができました。。

今回の大会は、ロボカップのアジア大会ということですね。

ちゃみ)そうです。この「ロボカップ アジア パシフィック」の中で、19歳以下が参加できるのが「ロボカップジュニア リーグ」です。こちらにいくつかカテゴリーがあり、その中の「ジュニアサッカー」に郡上の子どもたちが出場しました。

大会チラシ。大会のHPは こちら

「ロボット」が「サッカー」をするために必要なことを、こどもたちがつくる

「ロボカップジュニア」の「サッカー」とはどんな競技なんですか?人間みたいなロボットが、サッカーボールを蹴り合う?

ちゃみ)人間型ではないのですが(笑)、サッカー競技用ロボットがあります。
19歳以下のジュニア部門では大きさや重さなど、決められたルールに基づいて競技用のロボットを製作します。こちらに、自分たちでつくったコンピューター用の命令(プログラム)を入れて動かします。ロボットは自律型で、競技をはじめたらボールを追いかける、蹴る・・・正確には「押す」ですが・・・は、人が一切手を出さず、ロボットが自分で動いていきます。

リモコンなどで操るのではないのですね!すると、ロボットはどうやってサッカーをするのですか?

ちゃみ)サッカー用のロボットの構成は、人でいうと「足となる車輪」「それを動かすモーター」「目となるセンサー」「頭脳になるICチップ」などの部品でつくられています。
 目といっても、センサーはモノを判別できるようなものではなく、例えば明るさを判別するもので、これでサッカーコートの緑の芝部分と白線の明暗差を読み取って白線を見つけます。センサーが読み取った情報を「そこまでいったら止まる」などのプログラムによる制御に使っています。

ん? では、ボールはどうやって見つけるんですか?

ちゃみ)ボールからは赤外線が出ています。別の目として、ロボットには赤外線センサーをつけます。それでボールの方向を判断します。

サッカー競技用のロボット

えーっと、サッカーということは、ボールをみつけて、敵のゴールにシュートする ・・・ということですよね。人間がやるとあーしてこうして・・・と想像できるのですが、ロボットはどうやってやるんですか??

ちゃみ)「サッカーをする」というコンピューターの命令をつくるのは難しいので、まずは「ボールを見つけたら、追いかける」というプログラムを考えてもらいます。例えば、

(1)ボールが目の前になかったらその場で回る

(2)ボールが見つかったら、進む

(3)1と2を繰り返す

・・・などがプログラムです。

なるほど・・。あれ、これだとゴールは見つけられていないですよね?

ちゃみ)そう。どうやってゴールするか、ここがプログラミングの腕の見せどころです。
 ロボットはゴールが見えないので、”ロボットの向きが分かるセンサー”を使って最初にロボットに自分が向いている方向を覚えさせ、この情報をその後の動きを制御するプログラミングに使います。


ロボカップジュニアのサッカー競技の模様

小学生もこれを考えて、プログラムをつくるんですか?

ちゃみ)そうです。市販のキットがあるので、最初はそれを組み立てます。そこから「ロボットがどうやってボールを追いかけるか?」というプログラムを考え、コンピューターで入力して、ロボットを動かします。
 キットで基本的なことはできるのですが、やっているうちにロボット本体をもっとパワーアップさせたい、というこどもたちがでてきます。そこからは、こどもたちが自分でオリジナルのロボットをつくり始めます。いわゆる「改造」ですね。
 こどもたちは自分のプログラムに合わせてロボットを改造したり、必要な部品をネットの情報を見ながら探したりしています。さらに、買うと高い部品や、オリジナルになるので市場には無い部品を”3D-CADで設計”して、”3Dプリンタで自作する”子もいます。

「無いものは自分でつくる」・・・すごいですね!でも、そんな手間をかけなくても”一番いいロボットを買ってきて、優秀なプログラムを誰かからもらえば、最強のロボットができて、大会で簡単に勝てるのではないですか?

ちゃみ)それがそうでもないんです。
 まず、自分でつくったロボットでないと、大会中に壊れたりしたら直せない。また、自分でつくったプログラムでないと、やはり大会中にトラブルがおきたり、作戦を変える場合に対処できないんです。
 たまに親や先輩がつくったロボットを持ち込む子がいますが、すぐに分かりますね。大会は二人一組で参加しますが、競技中はだれの助けも借りることができないので、自分たちでやっていないと会場で起きたトラブルに対処できないので、上位にはいけないんです。
 まあ、そもそも自分でやってなければ楽しくないので、お金や知識ではなく、ホンキで取り組む、楽しんでいるこどもたちが上位にいける、ということです。

ロボカップって奥が深いんですね・・・。今回は優秀なこども達を送り込んだから入賞できた、ということですか?

ちゃみ)入賞したチームはどちらも、やる気と興味、そして好奇心が強いチームです。
 彼らが、他の出場チームに比べて特に優れていた、ということはないと思います。大会のタイミングでちょうどロボットが完成していて、調子よく動いていたから・・・ということはあると思いますが。大会に向けてロボットを作るとはいっても、当日までに間に合わなかったり、できたロボットが調子が悪いことはよくあることで、いくら実力があってもそのようなタイミングで大会になってしまうと入賞は難しいんです。
入賞した2チームとも大きな大会は初めての挑戦でしたが、彼らにとって今回はいいタイミングで出場できた、ということでしたね。

 

「ロボカップジュニア」の精神は、競争ではなく「教育」

え、初出場なんですか!? 大会に向けてずっと練習してきた、とかではないんですか?

ちゃみ)もちろん、年に一回ある地区大会や、県大会は経験しています。でも、郡上ロボットクラブはロボカップの大会だけを目指してやっているのではないんです。
 こどもたちはロボットづくりを、ただ好きだからやっているし、好きだから改造も無限にやっていけます。大会は初出場ですが、入賞した2チームのうちひとつは中学生で、彼らはロボット歴5年です。ベテランですね。
 彼らは全国的に見ればハイレベルなロボットをつくっていたのですが、同じクラブの高校生のメンバーがものすごく強いので、自分たちのレベルはまだまだ・・・と思っていて、もともとロボカップに出るつもりはなかったんです。
 でもロボカップのねらいは勝敗ではないんです。なので、機会があればぜひ参加してみてほしいな、と思っていたところに、今回はちょうど「中学生以下」というリーグが用意されました。上を目指している子達にとってこれはチャンス!と思い、「記念でいいから出てみれば」と、背中を押してみました。

ロボカップアジアパシフィック2021あいち」に出場した郡上のこどもたち

それはラッキーでしたね。つくったロボットが優秀なら入賞できるんですか?

ちゃみ)サッカー競技の得点に加え、「プレゼンテーション」の評価が合わさって上位入賞者が決まります。応募のときに、自分たちのロボットのPRポイントをまとめた「ポスター」をつくるのですが、そちらも審査対象になるんです。しかもロボカップは国際大会だったので、英語でつくる必要があります。

え、英語でプレゼン資料をつくるんですか!!こどもたちは英語もできるんですか?

ちゃみ)みんな、このために勉強していましたよ(笑)
 大会ではこのポスターを審査員に説明する「インタビュー」というのもあり、それもやはり英会話です。インタビューでは自分たちのロボットのこだわりや、製作における工夫、これまでの困難やそれをどう乗り越えたかなどを聞かれるので、ここでも自分でやっていないとすぐにバレますね。

入賞するには、強いロボットだけではダメなんですね。英語力までいるとは知りませんでした。まさに総合力が問われる。

ちゃみ)「ロボカップ」は大会の精神で、教育的な目的も大事にしています。運営するスタッフも全員ボランティアで、これまでロボット競技をやってきた子どもたちの保護者が多いです。
 先ほどの「インタビュー」では、審査員としてしてインタビューするのもボランティアのみなさんですが、頑張ってきたこどもたちを見守ってきた大人だからこそ、こどもたちと話すとかれらの取り組みが本物かどうか分かるんです。

 

こどもたちのつくったポスター。全て英語で制作される。

大会には、こどもたちの学びを支える大人の尽力も大きいんですね。

ちゃみ)大会の運営は大変ですが、こどもたちの学びはとても大きいです。大会は教育目的も大切にしているといいましたが、技術開発と同時に人と人との交流も大きな目的としています。
 こどもたちには、大会の出場を通して様々な刺激を受けます。会場には独特な緊張感がありますし、そこにいるのは同じ趣味を持った人ばかりです。例えば、自分が通う小学校でロボットをつくっているのが自分だけだったとしても、ここに来ると、世の中には自分と同じような人がたくさんいると知ります。
 また、普段は学校や宿題のことを考えながらロボット製作をしていますが、このときはずっとロボットのことだけを考えられます。”好きなことだけやっていていい”という数日間です。こどもたちは、空き時間をずっとロボットの改造に使っていますね。まぁ、お祭りですね。競技ではなく、”こどもたちの”お祭り騒ぎ”。だから楽しくないわけがないんです(笑)。
 これは行かないとわからないので、できるだけ行かせたいです。でもこども達が行くには、チャンスが必要です。それを大人が少し手伝ってあげる。行けば、出た子はみるからに変わりますよ。「あれに出たい!」と、また1年頑張るんです。

野球やバスケなど、大会を目指してがんばる、他の”リアル”スポーツの部活動と同じですね!

ちゃみ)そう。スポーツのクラブ活動と全くいっしょです。

大会では全国のこどもたちとの交流も生まれる

こどもたちが自律的に学べる仕組みを

ロボットづくりと、ロボカップという大会について少しだけ分かったような気がします。いずれにしても、これまでの学校や部活では無かった、こどもたちの新しい学びやチャレンジの場ができた、ということですね。

ちゃみ)そうですね。ロボットづくりを通して学べることはたくさんあって、例えば・・・

・エレクトロニクス(電気 モーター、センサー、測定機器)
・メカトロニクス(機械、構造、設計(3D CAD、3Dプリンター含む))
・コンピューター(Programming)
・工作、ものづくりの技術(設計、製造、試験、測定など)

・コミュニケーション、チームワーク
・コミュニケーションツール(Skaype、Google翻訳、PowerPoint等ドキュメント作成)

・語学(英語)
・プレゼンテーション
・デザイン

など、様々です。しかも大人に教わったり教科書で学ぶのではなく、こどもたちが自分たちで考え、調べ、やってみる中から発見し、必要と思ったことを自ら学んでいくんです。

こども達は3D-CADも自力で習得する(ビデオ「郡上カンパニードキュメンタリー1」より)

今、全国の高校では「総合的な探究の時間」という新しい授業が始まっています。「予測困難な未来を自ら切り開ける、生きる力をもった人を育てる」というためのものですが、教科書で学べない”正解の無い問い”に、生徒が主体的に取り組むことが求められる授業が始まっています。
この学びに有効だとされているのが、生徒自ら課題を立て、実践を通して学ぶ「PBL(Project Based Learning)」だとされています。ロボットづくりは、まさに「PBL」ですね。しかも小学生から始められる!

ちゃみ)僕は「これをやれ」という教え方はしていません。主体はこどもたち。大人はやれと言わないし、教えない。聞かれたら相談には乗るけど、答えを考えたり見つけるのはこども本人なんです。正解はないので。
 大人がすべてを教えなくても、こどもたちはロボットづくりを通してとても多くのことを学びます。自分たちでロボットをつくり、競技会に出て他の人たちと交流することで、必要なことを身を持って体験します。
 そしてチームで取り組むことで、社会性やコミュニケーションを学びます。例えば、集団の中からは当然リーダー的な者も出ます。彼らははじめ、強制したり、支配しようとすることもありますが、うまくいきません。すると、他の人たちと”共生”しようとします。ちゃんとディスカッションしたり、互いの長所や短所を活かしあったり。
 クラブでは、人の多様性を認め合うことが起きています。すると更によいロボットができるし、自分たちが楽しいということに、こどもたち自身が気づいていきます。
 そうしてできた仲間同士は、コロナ禍で集まることができなくなった中でも、オンラインで盛んに交流したりディスカッションしたりしています。こどもたちの新しい学びの場がどんどん広がっていますね。
 テクノロジーの進化もあり、地方でも最先端の学びができます。これから必要なのは、こどもたちが自律的に学べる仕組みだ、と思っています。

未来を自ら切り開く「探究心」を持ったこどもたちが、郡上で”ロボット”を通して育ちつつあることを知ってワクワクしました!今後の郡上ロボットクラブ、こどもたちの成長と活躍に期待します!ありがとうございました。

郡上ロボットクラブはこどもたちに新しい学びの場を提供している(ビデオ「郡上カンパニードキュメンタリー1」より)

実際にやってみないとわからない「ロボットづくり」ですが、その世界大会の「ロボカップ」は勝敗のための競技大会ではなく、教育を目的とした交流の場というのが驚きでした。また大会運営を支えるのも、趣旨に賛同したボランティアのみなさんだということに、深く感銘を受けました。
宮崎さんが始めた郡上でのロボット教室からは、たった5年間で全国レベルのこどもたちが育っています。彼らがこれからどんな大人になり、どんな世界をつくっていくのか。その時郡上はーー。宮崎さんの撒いた種がどんな実を結ぶのか、5年後、10年後の未来がとても楽しみです。
宮崎さんは「郡上ロボットクラブ」や「ロボット教室」など、こどもたちの興味関心とやる気に合わせてより向上していけるステップをつくっています。この内容や取り組み、目指す社会の姿などとても興味深いのですが、こちらについては、また改めてお伝えしたいです。
「郡上ロボットクラブ」の取り組みは、HP もぜひご覧ください、(事務局 小林)

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